M&Aのスキームとその選択、会計処理を時系列で理解する
― 経理・決算実務の視点から押さえるM&Aスキーム設計の要点 ―
はじめに|M&Aスキームは「会計処理の入口」である
M&Aは、一般に「企業を買う」「事業を統合する」といったイメージで語られることが多い。しかし、経理・会計の実務に携わる立場から見ると、M&Aとは将来にわたる会計処理・決算対応を内包した一連の取引にほかならない。
特に重要なのが、M&Aスキームの選択である。
どのスキームを選択するかによって、
- 単体決算で処理が完結するのか
- 連結会計を前提とするのか
- のれんがどこで、どのように発生するのか
といった会計処理の姿が大きく異なる。
本稿では、代表的なM&Aスキームを整理したうえで、スキーム選択時に検討すべきポイントと、会計処理の基本的なイメージについて、経理実務の視点から解説する。
1.M&Aの代表的な形態・手法(スキーム)
M&A(Mergers & Acquisitions)には多様な形態・手法が存在する。
それぞれの詳細な法務解説は専門書に譲るとして、本稿ではM&Aの目的と実行後の会社の姿に着目し、次の2つのケースに整理する。
1-1 買収対象を「自社の中に取り込みたい」ケース
まず、買収対象となる会社または事業を、自社の中に直接取り込むケースである。
この場合、代表的なスキームとして以下の3つが挙げられる。
| スキーム | 概要 | 実務上の特徴 |
|---|---|---|
| 吸収合併 | 買収側が存続会社となり、対象会社を消滅させる | 会社ごと一体化 |
| 吸収分割 | 事業の全部または一部を承継 | 事業単位で取得 |
| 事業譲渡 | 個別の資産・負債を売買 | リスク遮断が可能 |
吸収合併
吸収合併は、買収側が存続会社となり、買収対象会社を消滅させるM&Aスキームである。
実務上は、消滅会社の株主に対して、買収側の株式を交付する株式対価で行われるケースが多い。
吸収分割
吸収分割は、会社分割の一形態であり、事業の全部または一部を他社に承継させる方法である。
分割の対価を分割会社の株主が受け取る場合(分割型分割)と、分割会社自身が受け取る場合(分社型分割)がある。
事業譲渡
事業譲渡は、事業に属する資産・負債を個別に売買する取引である。
組織法上の行為である吸収分割とは異なり、契約ベースの取引である点が大きな特徴である。
1-2 買収対象を「自社とは別の会社として維持したい」ケース
次に、買収対象を子会社等として存続させ、自社とは別の会社として保持するケースである。
この場合、代表的なスキームは以下のとおりである。
| スキーム | 概要 | 実務上の特徴 |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 既存株主から株式を取得 | 最も一般的 |
| 株式交換 | 自社株式と交換し完全子会社化 | 株式対価に適する |
| 第三者割当増資 | 新株引受による出資 | マイノリティ出資が多い |
| 共同株式移転 | 持株会社を新設 | 経営統合に利用 |
株式譲渡
株式譲渡は、買収対象会社の発行済株式を既存株主から取得する方法であり、M&Aにおいて最も多く利用されている。
株式数を柔軟に調整できる点が特徴で、上場会社の場合には市場買付けやTOBが用いられることもある。
株式交換
株式交換は、他社を100%子会社とするために、対象会社の全株式を自社株式等と交換する組織再編手法である。
上場会社同士の完全子会社化などで多く利用される。
2.M&Aスキームの検討と選択における重要な視点
M&Aスキームの選択にあたっては、単に「実行できるか」だけでなく、多面的な観点からの検討が不可欠である。
2-1 M&A後のグループガバナンス
- 完全支配とするのか
- 一定の持分を売り手に残すのか
といった点は、M&A後の経営方針や管理体制に直結する。
2-2 買収資金・株価への影響
買収対価が現金か株式かによって、
- キャッシュアウトの有無
- 1株当たり価値の希薄化
といった影響が生じる。上場会社では特に重要な検討事項となる。
2-3 税務への影響
M&Aに関連する税務は、法人税法の組織再編税制により詳細に規定されている。
スキームや対価の内容によっては、想定外の税負担が生じる可能性がある。
2-4 許認可・事業継続性
事業に必要な許認可が、スキームによっては引き継げない場合がある。
この点を軽視すると、M&A後に事業が一時停止するリスクがある。
3.M&Aスキーム別の会計処理イメージ
最後に、M&Aスキームによって会計処理がどのように異なるかを整理する。
3-1 自社の中に取り込むケースの会計処理
吸収合併、吸収分割、事業譲渡では、自社が買収対象の資産・負債を直接受け入れる。
- 資産・負債を公正価値で認識
- 買収対価が純資産を超える部分はのれんとして計上
この会計処理は自社単体で完結し、原則として連結会計への影響は生じない。
3-2 別会社として維持するケースの会計処理
株式取得型のM&Aでは、自社単体では「株式の取得」として処理される。
会計処理は、取得後の持分比率によって次のように分かれる。
| 持分比率 | 会計処理 |
|---|---|
| 50%超 | 連結子会社 |
| 20%以上50%以下 | 持分法適用関連会社 |
| 20%未満 | その他有価証券 |
連結子会社となる場合、初度連結時に取得原価配分(PPA)が行われ、
のれんは連結会計上でのみ認識される点が重要である。
おわりに|スキーム選択は会計実務の成否を左右する
M&Aは、契約が成立した時点で終わるものではない。
会計処理・決算対応を通じて初めて、その成否が明らかになる。
スキーム選択の段階から、
- 連結の範囲
- のれんの発生
- 将来の減損リスク
まで見据えることが、経理実務におけるM&A対応の質を大きく左右する。
参考・参照先
- 「M&Aの経理実務を時系列で理解する 第2回
M&Aのスキームとその選択及び会計処理」経営財務DB 3727号 M&Aの経理実務を時系列で理解する 第2回 M&Aのスキームと… - 企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」
- 企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」
- 法人税法(組織再編税制)
- 会社法(合併・会社分割・株式交換・株式移転)