取引相場のない株式の評価
― 非上場株式は“株主区分”で決まる ―
相続税・贈与税の中でも、最も難易度が高い論点の一つが
取引相場のない株式(いわゆる非上場株式)の評価
です。
上場株式であれば市場価格がありますが、
非上場株式には市場価格が存在しません。
そのため、税務上は一定の計算式により評価します。
しかし実務で最も重要なのは、
まず「誰が株主か」を判定すること
です。
評価方法は、会社ではなく「株主の立場」で決まります。
1.評価の全体構造
非上場株式の評価は、大きく3つの方法があります。
| 評価方法 | 主な内容 |
|---|---|
| 類似業種比準価額方式 | 上場類似会社と比較 |
| 純資産価額方式 | 会社の純資産ベース |
| 配当還元方式 | 配当金ベース |
どの方法を使うかは、
株主の区分
で決まります。
2.株主区分の判定
株主は大きく分けて次の2種類に分類されます。
| 区分 | 概要 | 主な評価方法 |
|---|---|---|
| 支配株主 | 経営支配力あり | 原則:原則的評価方式 |
| 少数株主 | 経営支配力なし | 配当還元方式 |
■ 支配株主とは?
- 同族関係者グループで議決権の過半数を有する
- 経営支配力を持つ
場合などが該当します。
■ 少数株主とは?
- 支配力なし
- 単なる投資的保有
この場合は配当還元方式が原則。
3.原則的評価方式
支配株主の場合に適用されます。
さらに会社規模により区分されます。
■ 会社規模区分
| 区分 | 基準 | 評価方法 |
|---|---|---|
| 大会社 | 売上高・従業員数大 | 類似業種比準 |
| 中会社 | 中間規模 | 併用方式 |
| 小会社 | 小規模 | 純資産価額 |
■ 類似業種比準価額
上場企業の
- 配当
- 利益
- 純資産
を基準に比準します。
計算式は複雑ですが、本質は
市場水準との比較
です。
■ 純資産価額方式
会社の純資産を
- 時価ベース
- 含み損益反映
で評価します。
資産の含み益が多い会社では評価が高くなります。
■ 併用方式
中会社では、
類似業種比準価額 × 一定割合
+ 純資産価額 × 一定割合
で算定します。
4.配当還元方式
少数株主の場合に適用。
1株当たり配当金
÷ 10%
で評価。
評価額は大幅に低くなることが多い。
5.実務上の重要論点
① 株主区分の判定ミス
最も多い誤り。
株主区分を誤ると評価額が大きく変わります。
② 類似業種の選定
類似会社の選択は評価額に直結。
恣意的選定は否認リスク。
③ 純資産の時価修正
土地や有価証券の含み益修正が必要。
④ 直前対策の否認リスク
相続直前に
- 役員退職金支給
- 不動産売却
- 配当操作
などを行うと否認対象になる場合があります。
6.事業承継との関係
自社株評価は、
- 相続税額
- 贈与税額
- 事業承継税制適用可否
に直結します。
評価が高騰すると納税資金問題が発生。
7.評価の実務フロー
① 株主構成確認
↓
② 株主区分判定
↓
③ 会社規模判定
↓
④ 評価方法決定
↓
⑤ 計算実行
↓
⑥ 根拠資料保存
8.よくある誤解
❌ 純資産だけで評価すればよい
→ 会社規模により異なる
❌ 少し株式を分散すれば配当還元になる
→ 同族関係で判断
❌ 税務署は評価計算を見ない
→ 詳細に検証される
まとめ
取引相場のない株式の評価は、
「株主区分」と「会社規模」
がすべてです。
計算式よりも前に、
- 支配株主か
- 少数株主か
- 同族関係はどうか
を正確に把握することが最重要。