FASがスキーム検討で必ず作る「内部メモ」の中身とは?
M&Aの現場では、表に出てくる資料以上に重要なものがあります。
それが、**FAS(財務アドバイザー)が内部で必ず作成する「検討メモ」**です。
この内部メモは、
- クライアントにそのまま出す資料ではない
- 監査法人や税務署に提出するものでもない
しかし実務上は、
「このM&Aが成功するか失敗するかを8割決めている紙」
と言っても過言ではありません。
本記事では、FASがスキーム検討時に必ず頭の中と紙の上で整理している論点を、初心者にも分かるように解説します。
1.なぜFASは「内部メモ」を作るのか?
M&Aのスキーム検討では、次のような制約が同時に存在します。
- 会計上はOKだが、税務上はNG
- 税務上は有利だが、株主説明が難しい
- 法的には可能だが、PMIで破綻する
- 短期的には良いが、数年後に減損する
これらを一枚のストーリーとして整理するために、内部メモが作られます。
2.内部メモに必ず書かれる5つの論点
① 取引の「本質的目的」
最初に必ず書かれるのはこれです。
- なぜこの会社を買うのか
- 何を手に入れたいのか
- どこまで支配したいのか
👉 ここが曖昧な案件は、
スキーム検討の時点で赤信号です。
② 想定スキームの候補一覧
FASは最初から1つに決めません。
例:
- 株式譲渡(100%)
- 株式交換
- 事業譲渡
- 段階取得(増資→株式取得)
それぞれについて
**「なぜ選ばないのか」**を明確にします。
③ スキーム別インパクト整理(超重要)
内部メモの中心部分です。
| 観点 | 株式取得 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 簿外債務 | 引き継ぐ | 原則引き継がない |
| のれん | 大きくなりがち | 比較的限定的 |
| 税務 | のれん償却不可 | 償却可能な場合あり |
| PMI | 難易度中 | 難易度高 |
👉 この表を作らずに進むM&Aは、
ほぼ確実に後悔します。
④ 「最悪ケース」の洗い出し
FASは必ずこう考えます。
- 業績が想定より悪化したら?
- のれん減損が起きたら?
- コベナンツに抵触したら?
- 想定シナジーが出なかったら?
そして
「その最悪ケースに一番耐えられるスキームはどれか」
を検討します。
⑤ クライアントへの説明ストーリー
最後に、
- なぜこのスキームなのか
- 他の選択肢をなぜ捨てたのか
- 将来どんなリスクがあるのか
を、経営者の言葉で説明できるかを確認します。
3.内部メモが弱い案件の共通点
- スキームが最初から1択
- 税務・会計・PMIが別々に検討されている
- 「まあ大丈夫でしょう」が多い
- 最悪ケースの想定がない
👉 こうした案件は、
後から「そんなはずじゃなかったM&A」になります。
4.まとめ:FASの仕事は「計算」ではなく「設計」
FASが作る内部メモは、
単なる数値計算ではありません。
M&Aを1つの構造物として設計する設計図です。
この設計図が弱ければ、
どんなに高い企業価値評価をしても、
M&Aは崩れます。