【初心者向け】賃上げ促進税制を完全整理
―「給料を上げたら、法人税が下がる」制度の使い方 ―
人手不足や物価高を背景に、政府が後押ししているのが
**「給与等の支給額が増加した場合の特別控除(賃上げ促進税制)」**です。
「賃上げしたのに、何も戻ってこない…」
「計算がややこしくて使っていない…」
実はこの制度、要件さえ押さえれば効果が大きい一方、
“一箇所のミス”で丸ごと使えなくなるのが実務の現実です。
この記事では、中小企業・大企業それぞれの考え方を整理しつつ、
実務で失敗しないポイントまで落とし込みます。
1.制度の概要(まず全体像)
賃上げ促進税制とは、
一定の要件のもとで、
前年度より給与等の支給額を増やした場合に、
その増加額の一部を法人税額から直接控除できる制度
です。
ポイント
- 所得控除ではなく「税額控除」
- 節税効果がダイレクト
- 中小企業は特に手厚い
2.なぜこの制度があるのか?(制度趣旨)
この制度の目的は明確です。
- 企業の賃上げを促進
- 家計所得を増やす
- 消費を活性化する
そこで税制は、
「賃上げした企業ほど、税負担を軽くする」
という設計になっています。
👉 節税のために賃上げするのではなく、
👉 賃上げした結果、税制で報いるのが基本思想です。
3.対象となる法人(まずここを確認)
賃上げ促進税制は、
法人区分によって要件と控除率が異なります。
| 区分 | 主な対象 |
|---|---|
| 中小企業者等 | 資本金1億円以下など |
| 大企業 | 上記以外 |
👉 実務では、中小企業向けの適用可否判断が圧倒的に多いです。
4.「給与等」とは何を指す?
ここが最初の落とし穴です。
原則
給与等=損金算入される給与・賞与等
含まれるもの/含まれないもの
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| ⭕ 含まれる | 基本給、賞与、残業代 |
| ❌ 含まれない | 役員給与、退職金、福利厚生費 |
👉 役員給与はカウント不可
(同族会社ほど要注意)
5.要件①「給与等支給額の増加」
基本要件(中小企業のイメージ)
当期の給与等支給額 > 前期の給与等支給額
がまず大前提です。
さらに重要な点
- “1人当たり”ではなく“総額”比較
- 期ズレ・臨時賞与に注意
6.要件②「一定の増加率を満たすこと」
中小企業では、増加率に応じて控除率が変わります。
イメージ(年度により率は変動)
| 給与等の増加率 | 控除率(目安) |
|---|---|
| 一定率以上 | 増加額 × ○% |
| さらに上乗せ要件充足 | 増加額 × ◎% |
👉 「どこまで上げたか」で、控除額が変わる設計です。
7.控除額の計算方法(初心者向け)
基本式
税額控除額
=(当期給与等 − 前期給与等)× 控除率
具体例
| 内容 | 金額 |
|---|---|
| 前期給与等 | 10,000 |
| 当期給与等 | 11,000 |
| 増加額 | 1,000 |
| 控除率 | 15% |
税額控除額 = 1,000 × 15% = 150
👉 法人税から150を直接差し引くイメージです。
8.税額控除の上限(超重要)
賃上げ促進税制には、控除上限があります。
| 内容 | 原則 |
|---|---|
| 控除上限 | 法人税額の一定割合 |
| 超過分 | 切捨て(繰越不可) |
👉 赤字法人は使えない
👉 法人税が少ないと効果が出にくい
9.実務フロー(この順でやればOK)
- 前期・当期の給与等を正確に集計
- 含外項目(役員給与等)を除外
- 増加額・増加率を計算
- 控除率を判定
- 税額控除額を算定
- 申告書(別表)に反映
👉 “集計ミス”が一番多いので要注意。
10.税務調査で否認されやすいNG例
| NG例 | 否認理由 |
|---|---|
| 役員給与を含めた | 定義違反 |
| 前期・当期の集計基準が違う | 比較不能 |
| 一時的な賞与で増やした | 継続性疑義 |
| 申告書への記載漏れ | 手続要件不充足 |
👉 制度以前に「計算の正確性」が見られます。
11.税務調査で必ず聞かれる質問
- 「給与等の範囲はどう判断しましたか?」
- 「前期と同じ集計方法ですか?」
- 「この増加は一時的ではありませんか?」
👉 給与台帳・総勘定元帳の整合性が重要。
12.初心者向けの覚え方
最後にこれだけ覚えてください。
賃上げ促進税制は
「誰の給料を、いくら増やしたか」
を“正確に説明できるか”がすべて
まとめ|賃上げ促進税制は「実務精度が9割」
給与等の支給額が増加した場合の特別控除は、
- 中小企業にとって非常に強力
- しかし計算・集計ミスで即アウト
というハイリスク・ハイリターンな税制です。
重要なのは、
- 給与等の定義
- 前期との比較方法
- 税額控除の上限
- 申告書への正確な反映
この4点。