予測期間終了後の価値(継続価値)はどのように見積もるのか?永久成長率法を中心に実務上の考え方を解説
DCF法では、予測期間中のフリー・キャッシュ・フローだけでなく、予測期間終了後の価値も企業価値の重要な構成要素となります。この予測期間終了後の価値を継続価値(Terminal Value)といいます。
継続価値とは、予測期間終了後に生み出されるフリー・キャッシュ・フローを、予測期間終了時点の現在価値に割り引いたものです。将来のキャッシュ・フローを無限に個別予測することは現実的ではないため、一定の簡略化した仮定のもとで算定します。
継続価値の算定方法には複数ありますが、最も一般的なのは永久成長率法です。本稿では、永久成長率法の基本、標準化FCFの考え方、NOPLATを用いる簡便法の意味と注意点まで、実務上の観点から整理します。
1.継続価値とは何か
継続価値とは、予測期間終了後に企業が将来にわたって生み出すフリー・キャッシュ・フローの価値を、予測期間の最終時点における現在価値に換算したものです。
DCF法では、企業価値は大きく次の2つで構成されます。
| 構成要素 | 内容 |
|---|---|
| 予測期間の価値 | 明示的に予測した各年度のフリー・キャッシュ・フローの現在価値 |
| 継続価値 | 予測期間終了後のフリー・キャッシュ・フローの現在価値 |
多くのDCF評価では、企業価値の相当部分を継続価値が占めるため、継続価値の算定方法は極めて重要です。
2.継続価値の算定方法
継続価値の算定方法には複数ありますが、代表的なものは次のとおりです。
| 方法 | 概要 | 実務上の位置付け |
|---|---|---|
| 永久成長率法 | 標準化されたFCFが一定成長率で永続すると仮定する方法 | 最も一般的 |
| Exit Multiple法 | 予測期間最終年度のEBITDA等に市場倍率を乗じる方法 | M&A実務で併用されることがある |
| バリュードライバー法 | 成長率と再投資率の関係を明示して継続価値を算定する方法 | 理論的に精緻 |
このうち、最も分かりやすく、かつ広く用いられているのが永久成長率法です。
3.基本は永久成長率法
永久成長率法とは、予測期間最終年度の標準化されたフリー・キャッシュ・フローが、その後は毎期一定の成長率で永続すると仮定して継続価値を算定する方法です。
一般式は次のとおりです。
TV = FCFn+1 ÷ (r − g)
- TV:予測期間終了時点の継続価値
- FCFn+1:予測期間最終年度の次年度における標準化フリー・キャッシュ・フロー
- r:割引率
- g:永久成長率
なお、評価基準日時点の企業価値に反映するには、この継続価値をさらに評価基準日まで割り引く必要があります。
4.なぜ「標準化」が必要なのか
永久成長率法では、単に予測期間最終年度のFCFをそのまま使えばよいわけではありません。なぜなら、最終年度のFCFには、その年度特有の一時的要因が含まれていることがあるからです。
たとえば、次のような事情があると、最終年度のFCFは長期的に持続可能な水準を適切に表していない可能性があります。
- 設備投資が一時的に大きい、または小さい
- 運転資本が一時的に増減している
- 一過性の費用や税効果が含まれている
そのため、継続価値の算定では、短期的変動要因を除いた長期的に持続可能なFCFに修正する必要があります。これをフリー・キャッシュ・フローの標準化といいます。
5.最も簡便な方法:NOPLATを用いる方法
標準化の方法はいくつかありますが、最も簡便なのは、予測期間最終年度のNOPLATをそのまま標準化FCFとして用いる方法です。
この場合、継続価値は次式で求められます。
TV = NOPLATn+1 ÷ (r − g)
ただし、この方法は単なる計算テクニックではなく、次の前提を暗黙に置いています。
(1)減価償却費と資本的支出が等しい
これは、減価償却により費用化された分だけ、維持更新投資が行われることを意味します。言い換えれば、長期的には拡張的な設備投資を前提とせず、現状維持的な投資だけが行われるという想定です。
(2)のれん償却費は発生しない
のれん償却費は会計上は費用であっても、継続価値の前提となる長期安定状態では、のれんに象徴される超過収益力は永続的に残るとは考えにくく、継続価値算定上はのれん償却費が将来発生しないと整理するのが整合的な場合があります。
この場合、予測期間最終年度のEBITに含まれるのれん償却費は除いてNOPLATを再計算し、そのうえで税額も見直す必要があります。つまり、のれん償却がなくなれば、過去に存在していた節税効果もなくなるため、単純に費用だけ戻せばよいわけではありません。
(3)運転資本の増減は生じない
これは、企業が長期的に見て、売上高、利益率、回転率などをおおむね一定水準で維持するという前提です。したがって、継続価値の算定にあたっては、追加的な運転資本増加を見込まない整理になります。
6.NOPLATを用いる方法の意味
FCFは一般に、次のように表されます。
FCF = NOPLAT + 減価償却費等 − CAPEX − 運転資本増減
したがって、標準化FCFとしてNOPLATをそのまま使うということは、実質的には次の状態を前提にしていることになります。
- 減価償却費 = CAPEX
- 運転資本増減 = 0
- のれん償却等の特殊項目は除外済み
この前提は、企業が安定成長ないし低成長の成熟段階にある場合には、一定の合理性を持ちます。
7.NOPLAT法の問題点
もっとも、予測期間最終年度のNOPLATをそのまま継続価値の基礎にする方法には注意点があります。
最大の問題は、成長のための再投資を十分に反映しない可能性があることです。
企業が将来にわたって一定割合で成長するのであれば、その成長を実現するためには通常、次のような追加投資が必要になります。
- 設備・システム等への追加投資
- 売上拡大に伴う運転資本の増加
この場合、投資家に分配可能なFCFはNOPLATよりも小さくなるのが通常です。にもかかわらず、NOPLATがそのまま一定成長率で永続すると仮定すると、継続価値を過大に評価するおそれがあります。
特に注意すべきケース
| ケース | 留意点 |
|---|---|
| 永久成長率が0%に近い場合 | NOPLAT法との整合性は比較的高い |
| 永久成長率が一定程度プラスの場合 | 成長に必要な再投資を見込まないと過大評価になりやすい |
| 設備投資負担の大きい業種 | 維持投資・成長投資の区分を慎重に検討すべき |
| 運転資本負担が大きい業種 | 売上成長に応じた追加運転資本を考慮すべき |
8.この問題を補う考え方:バリュードライバー法
NOPLAT法の弱点は、成長のための再投資を明示していない点にあります。この点を補う考え方として、バリュードライバー法があります。
バリュードライバー法では、成長率、投下資本利益率、再投資率の関係を明示し、成長を支えるために必要な投資を織り込んだうえで継続価値を算定します。
そのため、永久成長率が一定程度ある場合や、再投資負担が大きい企業では、NOPLAT法よりも理論的に整合的な結果が得られやすいといえます。
9.まとめ
予測期間終了後の価値である継続価値は、DCF法において企業価値の大きな部分を占める重要な要素です。継続価値の算定方法としては、永久成長率法が最も一般的であり、標準化されたフリー・キャッシュ・フローが一定成長率で永続すると仮定して計算します。
その際、最も簡便な方法として予測期間最終年度のNOPLATを標準化FCFとして用いる方法がありますが、これは、減価償却費とCAPEXが等しいこと、運転資本増減がないこと、のれん償却費が発生しないことを暗黙に前提としています。
したがって、この方法は成熟企業や低成長企業には比較的なじみやすい一方、一定の成長を前提とする場合には、成長のための再投資を反映しないことで継続価値を過大評価するおそれがあります。そのため、案件によっては、標準化FCFの作り方やバリュードライバー法の利用を含めて慎重に検討する必要があります。