フリー・キャッシュ・フローはどのようにして算定されるのか?DCF法の中核を初心者向けにわかりやすく解説

DCF法を理解するうえで、最も重要な論点の一つが「フリー・キャッシュ・フローはどのように計算するのか」という点です。企業価値評価では、会計上の利益をそのまま割り引くのではなく、株主と債権者に分配可能なキャッシュ・フローを把握し、それを現在価値へ割り引いて事業価値を求めます。そのため、フリー・キャッシュ・フローの考え方と算定方法を正しく理解することは、DCF法の出発点であるといえます。

フリー・キャッシュ・フローとは、事業活動を通じて生み出されるキャッシュ・フローのうち、総資本提供者である株主および債権者に分配可能なキャッシュ・フローをいいます。したがって、単に利益が出ているかどうかではなく、その利益が実際にどれだけ資金として残るのか、さらに事業継続や成長に必要な投資を差し引いた後に、どれだけ資本提供者へ還元可能かという観点から把握する必要があります。

【ポイント】 フリー・キャッシュ・フローは「会計上の利益」ではなく、「事業活動で生み出され、株主と債権者に分配可能な現金ベースの成果」です。DCF法では、この金額を割り引いて企業価値を求めます。

■ フリー・キャッシュ・フローとは何か

フリー・キャッシュ・フローには、二つの重要な特徴があります。

第一に、事業活動を通じて生み出されるキャッシュ・フローであることです。つまり、商品やサービスの提供に伴って生じる売上高、売上原価、販売費及び一般管理費などに関連するキャッシュの動きが中心になります。これに対し、運用目的の資産から生じる収益や、資金の調達・返済に伴うキャッシュ・フローは、通常のフリー・キャッシュ・フローには含めません。

第二に、株主と債権者という総資本提供者に分配可能なキャッシュ・フローであることです。企業は、利益を上げても、そのすべてを自由に配当や利息の支払いに回せるわけではありません。法人税等を納付し、さらに事業維持や成長のために設備投資や運転資本の増加に資金を投下する必要があります。そうした必要資金を差し引いた後に残る、分配可能な部分がフリー・キャッシュ・フローです。

観点内容
事業活動を通じて生み出されること商品・サービスの提供に伴うキャッシュ・フローであること
総資本提供者に分配可能であること株主と債権者に還元可能なキャッシュ・フローであること

■ フリー・キャッシュ・フローの基本的な算定の流れ

フリー・キャッシュ・フローは、営業利益を起点として、税金、非資金費用、設備投資、運転資本増減などを調整することにより算定されます。実務でよく用いられる考え方を単純化すると、次のようになります。

フリー・キャッシュ・フロー = 営業利益ベースの利益 − 法人税等 + 非資金費用 − 資本的支出 − 運転資本の増加(又は+運転資本の減少)

この流れを表にすると、次のとおりです。

手順内容調整の方向
1営業利益を起点とする出発点
2必要に応じて営業外損益の一部を調整しEBITを求める加減算
3法人税等を控除してNOPLATを求める減算
4減価償却費等の非資金費用を加算する加算
5資本的支出を控除する減算
6運転資本の増減を調整する増加なら減算、減少なら加算

■ 算定の出発点は営業利益

フリー・キャッシュ・フローの算定は、通常、営業利益を出発点とします。なぜなら、フリー・キャッシュ・フローは事業活動から生み出されるキャッシュ・フローであるため、まずは本業から生じる利益を基礎に把握するのが自然だからです。

ただし、営業利益だけでは必ずしも事業の実態を適切に表さないことがあります。たとえば、毎期安定的に発生する賃貸用不動産の賃料収入や、運用目的ではない有価証券の受取利息・配当金などが営業外損益に計上されている場合、それらをフリー・キャッシュ・フローに含める方が合理的なことがあります。

このような調整を加えた後の利益を、EBIT(利払前税引前利益)といいます。

項目通常の扱い
売上高、売上原価、販管費原則としてFCF算定に含める
運用目的の資産からの収益通常はFCFに含めず非事業資産として別建て
資金調達・返済に関する損益FCFには含めない

【実務メモ】 営業外収益や営業外費用という会計上の表示区分だけで判断するのではなく、「その収益や費用が事業の継続的なキャッシュ創出に関係するか」で考えることが重要です。

■ 法人税等を控除してNOPLATを求める

次に、EBITから法人税等を控除します。ここで控除する税額は、通常、EBITに実効税率を乗じて見積もります。こうして求めた税引後の営業利益を、NOPLAT(Net Operating Profit Less Adjusted Taxes)といいます。

NOPLATは、利払いの影響を受けない、事業活動ベースの税引後利益です。DCF法では、株主と債権者の双方に帰属する事業価値を評価するため、支払利息控除後の利益ではなく、利払い前の利益に税効果を反映したNOPLATが重要になります。

もっとも、実務では税務上の繰越欠損金、損金不算入項目、のれん償却の税務上の扱いなどにより、会計上の利益と課税所得が一致しないことがあります。その場合には、実効税率を機械的に掛けるだけでなく、個別の税務効果を調整する必要があります。

項目内容
EBIT利払前税引前利益
法人税等通常はEBIT×実効税率で見積もる
NOPLATEBITから法人税等を控除した後の税引後営業利益

■ 減価償却費等の非資金費用を加算する

NOPLATは利益ベースの数値であるため、その中には現金支出を伴わない費用が含まれています。代表例が減価償却費です。減価償却費は会計上費用として計上されますが、その期に現金が出ていくわけではありません。したがって、キャッシュ・フローを把握するためには、NOPLATに加算し直す必要があります。

同様に、のれん償却費、長期前払費用償却なども、現金支出を伴わない費用であれば加算対象となります。

ただし、すべての非資金費用を無条件に加算するわけではありません。たとえば、貸倒引当金繰入額や貸倒損失のように、後で運転資本の増減として調整される項目については、ここで加算すると二重調整になる可能性があります。そのため、加算対象とする項目は、運転資本調整との関係を確認しながら判断する必要があります。

代表的な非資金費用基本的な扱い
減価償却費加算
のれん償却費通常は加算又はEBIT段階で調整
長期前払費用償却加算
貸倒引当金繰入額運転資本調整との二重計上に注意

■ 資本的支出を控除する

次に、設備投資などの資本的支出を控除します。企業が機械設備、建物、システム、無形資産などを取得すると、その時点では会計上の費用として全額計上されず、資産計上されたうえで将来にわたり減価償却費等として費用配分されます。しかし、キャッシュ・フローの観点からみれば、取得時点で現金は流出しています。

そのため、フリー・キャッシュ・フローを計算する際には、減価償却費を加算する一方で、実際の資本的支出を控除しなければなりません。

また、有形固定資産や無形固定資産の売却が見込まれる場合には、売却損益そのものではなく、税効果を考慮した正味売却収入を、負の資本的支出として加算することがあります。

項目基本的な扱い
設備投資控除
大規模修繕の資産計上分控除
固定資産売却収入税効果考慮後、負の資本的支出として加算することがある

【コメント】 減価償却費を加算するだけで終わると、設備投資の負担を無視した過大評価になります。DCF法では、利益と投資の両方をセットで見ることが大切です。

■ 運転資本の増減を調整する

フリー・キャッシュ・フローの算定では、運転資本の増減も重要な調整項目です。運転資本とは、一般に事業に必要な流動資産から無利子の流動負債を差し引いた金額をいいます。典型的には、売上債権、棚卸資産、仕入債務が主要項目です。

考え方はシンプルです。

・資産が増加した場合は、その分だけ資金が事業に拘束されるため減算
・資産が減少した場合は、その分だけ資金が回収されるため加算
・負債が増加した場合は、その分だけ資金負担が先送りされるため加算
・負債が減少した場合は、その分だけ資金が流出するため減算

運転資本の動きFCFへの影響
売上債権の増加減算
棚卸資産の増加減算
仕入債務の増加加算
売上債権の減少加算
棚卸資産の減少加算
仕入債務の減少減算

実務上、予想貸借対照表を作成している場合には、その増減から運転資本調整を行います。予想貸借対照表がない場合でも、売上高又は売上原価に比例して売上債権、棚卸資産、仕入債務が増減すると仮定して見積もる方法がよく使われます。

■ フリー・キャッシュ・フローの代表的な計算式

以上をまとめると、フリー・キャッシュ・フローは概ね次のように整理できます。

計算要素符号
EBIT
法人税等
減価償却費等
資本的支出
運転資本の増加
運転資本の減少

文章で書けば、次のようになります。

フリー・キャッシュ・フロー = EBIT − 法人税等 + 減価償却費等 − 資本的支出 − 運転資本の増加(又は+運転資本の減少)

■ 設例で考えるフリー・キャッシュ・フローの算定

ご提示の設例では、営業利益、減価償却費、資本的支出、運転資本の増減が与えられています。法人税率は40%であり、非事業資産はなく、流動負債はすべて無利子負債、固定負債はすべて有利子負債とされています。

まず、営業利益から法人税等を差し引いてNOPLATを求めます。

項目1年目2年目3年目
営業利益3,3003,9604,356
法人税等(40%)1,3201,5841,742
NOPLAT1,9802,3762,614

次に、減価償却費、資本的支出、運転資本の増減を調整します。運転資本は、流動資産から流動負債を差し引いた金額として再構成されており、その増加額は1年目200、2年目120、3年目0となっています。

項目1年目2年目3年目
NOPLAT1,9802,3762,614
減価償却費500600660
資本的支出△2,500△1,800△660
運転資本の増減△200△1200
フリー・キャッシュ・フロー△2201,0562,614

この結果、1年目は設備投資負担が大きいためフリー・キャッシュ・フローがマイナスになっていますが、2年目以降はプラスに転じています。DCF法では、このように「利益が出ているか」ではなく、「投資や運転資本負担を含めた後で、実際にどれだけ分配可能資金が残るか」を見ていきます。

【初心者向けの理解】 1年目は利益自体は出ていますが、大きな設備投資を行っているため、分配可能なお金はマイナスになっています。これが、会計利益とフリー・キャッシュ・フローが一致しない典型例です。

■ 財務キャッシュ・フローとの関係

フリー・キャッシュ・フローを理解するうえでは、財務キャッシュ・フローとの関係も重要です。財務キャッシュ・フローとは、借入れ、返済、利息支払い、配当など、資金の調達返済や資本提供者への分配に関するキャッシュ・フローです。

設例では非事業資産や余剰資金をゼロと仮定しているため、フリー・キャッシュ・フローと財務キャッシュ・フローの合計はゼロになります。これは、事業から生み出された分配可能資金が、最終的には借入れ、利息、配当などの形で資本提供者へ帰着することを意味しています。

財務キャッシュ・フローを求める際には、支払利息について税効果分を戻す点に注意が必要です。なぜなら、フリー・キャッシュ・フローの算定では営業利益に対して法人税等を控除しているため、利息控除による節税効果をそのまま放置すると、税額が過大に控除されたままになってしまうからです。

■ その他のキャッシュ・フローとの違い

企業のキャッシュ・フローは、大きく次の三つに分けて考えることができます。

区分内容
フリー・キャッシュ・フロー営業損益に関連するキャッシュ・フロー
営業外キャッシュ・フロー非事業活動から生じるキャッシュ・フロー
財務キャッシュ・フロー資金調達返済や投資家分配に関するキャッシュ・フロー

このうち、DCF法で事業価値評価の中心になるのがフリー・キャッシュ・フローです。営業外キャッシュ・フローは非事業資産として別建て評価されることが多く、財務キャッシュ・フローは資本構成に関するものであるため、事業そのものの価値を測るフリー・キャッシュ・フローとは区別して考えます。

■ まとめ

フリー・キャッシュ・フローとは、事業活動を通じて生み出されるキャッシュ・フローのうち、株主および債権者に分配可能なキャッシュ・フローをいいます。DCF法では、この金額を現在価値に割り引くことで事業価値を求めます。

算定の基本は、営業利益を起点として、必要に応じて営業外項目を調整してEBITを求め、そこから法人税等を控除してNOPLATを計算し、さらに減価償却費等を加算し、資本的支出と運転資本増減を調整するという流れです。

最後に要点を整理すると、次のとおりです。

・フリー・キャッシュ・フローは、事業活動から生じ、総資本提供者に分配可能なキャッシュ・フローである
・算定の出発点は通常、営業利益である
・法人税等を控除してNOPLATを求める
・減価償却費等の非資金費用は加算する
・資本的支出は控除する
・運転資本の増加は減算し、減少は加算する
・会計利益とフリー・キャッシュ・フローは一致しないことが多い

DCF法を読むときは、利益の大きさだけでなく、「その利益がどれだけキャッシュとして残るのか」「設備投資や運転資本の負担を差し引いても分配可能資金が残るのか」を見ることが、最も重要な視点になります。

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