オーナー企業の買収では株式譲渡と事業譲渡のどちらが有利?税負担の違いを具体例で解説
オーナー企業のM&Aでは、買収スキームとして株式譲渡方式と事業譲渡方式がよく比較されます。どちらも会社や事業を引き継ぐ手法ですが、税務上の扱いは大きく異なります。
特に、オーナー企業では、株主が個人オーナー1名または少数であることが多く、買収対価が誰に入るのか、すなわち株主に直接入るのか、会社に入るのかによって、最終的な税負担に大きな差が出ます。
この記事では、単純な買収を前提に、株式譲渡方式と事業譲渡方式の税負担の違いを、被買収会社側・買収会社側に分けて整理し、どちらが有利になりやすいのかを解説します。
この記事でわかること
- オーナー企業の買収で株式譲渡方式が選ばれやすい理由
- 事業譲渡方式だと税負担が重くなりやすい理由
- 被買収会社側・株主側・買収会社側の税負担の違い
- 資産調整勘定による買収会社側の税務メリット
- それでも事業譲渡方式が選ばれるケース
オーナー企業の「単純な買収」とは
ここでいう単純な買収とは、他の法人を買収して完全子会社化するもっとも基本的なケースを指します。実務上はさまざまな手法がありますが、代表的なのは次の2つです。
- 株式譲渡方式:オーナー株主から株式を買い取る方式
- 事業譲渡方式:会社から事業を買い取る方式
株式譲渡方式では、買収代金は株主に直接支払われます。これに対し、事業譲渡方式では、買収代金は被買収会社に入金されます。オーナー個人がその資金を最終的に受け取るには、配当・清算分配など別の資本取引が必要になります。
この違いが、税負担の差を生む最大のポイントです。
前提条件
以下の前提、条件に沿って比較します。
- 法人税、住民税及び事業税の実効税率は30%
- M&Aに伴う付随費用は考慮しない
- 節税効果の計算では時間的価値を考慮しない
- 被買収会社の資本金等の額と、株主が保有する株式の取得価額は一致している
- 被買収会社の株主は日本居住者の個人1名
- 個人株主には追加所得が生じても高税率帯が適用される
設例
比較の前提となる被買収会社の財務状況は次のとおりです。
| 項目 | 税務簿価 | 時価 |
|---|---|---|
| 資産 | 11,000百万円 | 11,000百万円 |
| 資産調整勘定相当額 | 0 | 6,000百万円 |
| 負債 | 8,000百万円 | 8,000百万円 |
| 純資産 | 3,000百万円 | 9,000百万円 |
さらに、純資産の内訳は次のように整理します。
| 項目 | 税務簿価 | 時価 |
|---|---|---|
| 資本金 | 50百万円 | 50百万円 |
| 資本準備金 | 50百万円 | 50百万円 |
| 利益剰余金 | 2,900百万円 | 8,900百万円 |
| 純資産合計 | 3,000百万円 | 9,000百万円 |
- 被買収会社株式の譲渡価額は9,000百万円
- 個人株主の株式取得価額は100百万円
税負担の全体像
この設例で最も重要なのは、株式譲渡方式では株主が譲渡代金を直接受け取り、事業譲渡方式では会社が譲渡代金を受け取る点です。
株式譲渡方式では、被買収会社自体には原則として課税関係が生じません。一方、事業譲渡方式では、まず被買収会社に譲渡益課税が生じ、その後、会社に残った資金を株主に移す段階で、さらに株主課税が生じやすくなります。いわゆる法人段階と株主段階の二重課税に近い構造になります。
先に結論
オーナー企業の単純買収では、被買収会社側の税負担が重くなりやすいため、株式譲渡方式のほうが有利になるケースが多いです。
被買収会社側の税負担比較
1. 株式譲渡方式
株式譲渡方式では、売買の対象はあくまで株主が保有する株式です。会社の資産や負債が譲渡されるわけではないため、被買収会社自体には原則として課税関係が生じません。
課税されるのは、株式を売却した個人株主です。個人株主は、株式の譲渡所得として分離課税を受けます。一般に、譲渡所得に対しては約20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税)が適用されます。
設例では、概算上の譲渡所得課税は次のようになります。
- 譲渡収入:9,000百万円
- 譲渡原価:450百万円
- 譲渡益:8,550百万円
- 税額:8,550百万円 × 20.315% = 約1,736百万円
したがって、被買収会社側全体で見ると、税負担は約1,736百万円となります。
2. 事業譲渡方式
事業譲渡方式では、被買収会社が事業を譲渡するため、会社段階で譲渡益課税が発生します。設例では、時価純資産9,000百万円に対し税務簿価純資産が3,000百万円であるため、譲渡益は6,000百万円です。
実効税率を30%とすると、被買収会社にかかる法人税等は次のとおりです。
- 事業譲渡益:6,000百万円
- 法人税等:6,000百万円 × 30% = 1,800百万円
さらに、事業譲渡代金は会社に入るため、オーナー個人がその資金を受け取るには、配当または清算分配が必要になります。画像資料では、残余財産の分配に伴う株主課税を、配当所得等に対する高税率を踏まえ、概ね50%で試算しています。
- 会社に残る残余財産:9,000百万円 − 1,800百万円 = 7,200百万円
- 株主の取得価額控除後の課税対象:7,200百万円 − 100百万円 = 7,100百万円
- 株主課税:7,100百万円 × 約50% = 約3,550百万円
よって、被買収会社側全体の税負担は、
- 会社段階:1,800百万円
- 株主段階:3,550百万円
- 合計:5,350百万円
となります。
買収会社側の税負担比較
1. 株式譲渡方式
買収会社は単に株式を取得するだけなので、取得時点では原則として課税関係は生じません。取得した株式は資産計上され、直ちに損金になるわけではありません。
したがって、設例上の買収会社側の税負担は0百万円と整理されます。
2. 事業譲渡方式
事業譲渡方式では、買収会社側は取得した事業に含まれる超過収益力等に対応して、一定の場合に資産調整勘定を認識します。画像資料では、この資産調整勘定相当額を6,000百万円とし、将来の損金算入による節税効果を見込んでいます。
実効税率30%で試算すると、将来の節税効果は次のとおりです。
- 資産調整勘定:6,000百万円
- 節税効果:6,000百万円 × 30% = ▲1,800百万円
したがって、買収会社側だけを見れば、事業譲渡方式には将来の税負担軽減メリットがあります。
最終比較|どちらが有利か
| 比較項目 | 株式譲渡方式 | 事業譲渡方式 | 有利・不利 |
|---|---|---|---|
| 被買収会社側 | 1,736百万円 | 5,350百万円 | 株式譲渡方式が有利 |
| 買収会社側 | 0百万円 | ▲1,800百万円 | 事業譲渡方式が有利 |
| 全体合計 | 1,736百万円 | 3,550百万円 | 株式譲渡方式が有利 |
この設例では、買収会社側だけを見れば事業譲渡方式に税務メリットがありますが、被買収会社側、特にオーナー株主段階の税負担が重くなるため、最終的な全体税負担では株式譲渡方式のほうが有利となります。
なぜオーナー企業では株式譲渡方式が有利になりやすいのか
理由はシンプルです。株式譲渡方式では、オーナー個人が直接譲渡代金を受け取り、株式譲渡所得として比較的低い税率で課税されるのに対し、事業譲渡方式では、いったん会社に課税された後、さらにオーナーに資金を移す段階で追加課税が生じやすいからです。
- 株式譲渡方式:株主レベルでの譲渡所得課税が中心
- 事業譲渡方式:会社レベルの譲渡益課税+株主レベルの課税
また、事業譲渡方式では、消費税、不動産取得税、登録免許税などの周辺税目も生じ得るため、実際には差がさらに広がることがあります。
それでも事業譲渡方式が選ばれるケース
もっとも、税負担だけで常に株式譲渡方式が最適とは限りません。次のようなケースでは、事業譲渡方式が選ばれることがあります。
- 簿外債務や偶発債務を承継したくない
- 必要な事業だけを選別して取得したい
- 許認可や契約関係を個別に整理し直したい
- 被買収会社に買収代金を残したい事情がある
- 買収会社側で資産調整勘定による税務メリットを重視する
つまり、オーナー企業のM&Aでは、全体税負担と承継リスクの切り分けをどちら重視するかで、最適なスキームが変わります。
実務上の視点
売り手オーナーの手取りを重視するなら株式譲渡方式、買い手のリスク遮断や取得対象の選別を重視するなら事業譲渡方式、という整理が実務ではよく用いられます。
チェックリスト
- 買収代金を最終的に誰が受け取るのか
- オーナー株主の税率はどの程度か
- 被買収会社に多額の利益剰余金があるか
- 簿外債務や偶発債務を切り離す必要があるか
- 資産調整勘定のメリットをどこまで織り込むか
- 消費税、不動産取得税、登録免許税など周辺税目を試算したか
- 会社清算や残余財産分配まで含めて出口設計をしたか
まとめ
オーナー企業の単純買収では、株式譲渡方式と事業譲渡方式のどちらを選ぶかで、最終的な税負担が大きく変わります。設例のように、被買収会社の利益剰余金や含み益が大きい場合には、事業譲渡方式では会社段階と株主段階の二重の税負担が生じやすく、全体として株式譲渡方式のほうが有利になりやすいです。
一方で、事業譲渡方式には、買収会社側で資産調整勘定を認識できるメリットや、不要資産・簿外債務を切り離せるメリットがあります。したがって、実際のM&Aでは、税負担だけでなく、リスク承継、契約承継、許認可、出口設計まで含めて、総合的にスキームを選ぶことが重要です。
参考条文・資料
- 法人税法 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
- 所得税法 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033/
- 国税庁 No.6931 消費税等と譲渡所得 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6931.htm
- 国税庁 事業の譲受けに伴い賞与支払債務の履行に係る負担を引き受けた… https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/33/40.htm
- 国税庁 投資簿価修正における資産調整勘定対応金額等の加算措置 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/group_faq/63.htm
- 国税庁 譲渡所得等に係る収入金額とみなす金額等-資本の払戻し等の場合 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/joto-sanrin/070405/08.htm