非上場株式の公正価値評価はなぜ議論になっているのか?
― スタートアップ投資・VC投資と会計基準の最前線をやさしく解説 ―
近年、「非上場株式の公正価値評価(フェアバリュー評価)」が、会計・監査・M&Aの実務現場で大きなテーマになっています。
特にスタートアップ投資やVC(ベンチャーキャピタル)を巡る環境変化を背景に、日本の会計基準(JGAAP)とIFRSの考え方の違いが、改めて注目されています。
本記事では、
- なぜ今「非上場株式の公正価値評価」が問題になっているのか
- 日本基準とIFRSの違い
- ASBJ(企業会計基準委員会)で何が議論されているのか
- 実務で注意すべきポイント
を、会計初心者でも分かるように整理します。
1. なぜ今、非上場株式の公正価値評価が注目されているのか
スタートアップ育成政策が背景
記事でも詳しく説明されているとおり、日本では近年、スタートアップ育成が国家戦略レベルのテーマになっています。
- 「スタートアップ創出元年」の宣言
- VC投資額を5年で10倍にする目標
- 海外投資家の呼び込み
こうした流れの中で問題になったのが、
👉 日本のVC投資のパフォーマンスが国際的に比較しづらい
という点です。
日本では「取得原価評価」が多かった
従来、日本では以下のような実務が一般的でした。
- 非上場株式 =「市場価格のない有価証券」
- 原則:取得原価で評価
- 時価評価は例外的
一方、海外(特にIFRS圏)では、
👉 非上場株式も公正価値で評価するのが原則
です。
このギャップが、政策・投資・会計の面で問題視されるようになりました。
2. 日本基準(JGAAP)とIFRSの決定的な違い
まずは基本を整理しましょう。
非上場株式の評価方法の違い
| 観点 | 日本基準(JGAAP) | IFRS |
|---|---|---|
| 基本的な位置づけ | 市場価格のない有価証券 | 金融資産 |
| 決算時評価 | 原則:取得原価 | 原則:公正価値 |
| 評価差額 | 減損のみ反映 | 損益またはOCI |
| 実務負担 | 比較的軽い | 評価実務が重い |
特に重要なのは、
👉 IFRSでは「評価しない」という選択肢が基本的にない
という点です。
3. VC投資を巡る実務上のややこしさ
直接投資と間接投資の違い
記事では、非上場株式投資を次の2パターンに整理しています。
- VCファンド(LPSなど)を通じた間接投資
- 事業会社が非上場株式に直接投資
ここで問題になるのが、
同じ非上場株式なのに、評価結果が変わり得るという点です。
- VCファンド側では公正価値評価
- 出資者(事業会社)側では取得原価評価
👉 会計処理の「ねじれ」が生じます。
4. LPS会計規則改正とそのインパクト
2023年末、LPS(投資事業有限責任組合)会計規則が改正され、
- 金融商品の「時価」=公正価値と明確化
- 原則として公正価値評価を求める方向へ
と舵が切られました。
これは、
👉 VCファンドの財務諸表だけでなく、その出資者の会計にも影響し得る
という点で非常に重要です。
5. ASBJで議論されている評価アプローチ
記事では、ASBJ事務局が提示した複数のアプローチが整理されています。
提示されている主な選択肢(要約)
| アプローチ | 内容 | 適用範囲 |
|---|---|---|
| A | VCファンド出資を一括で時価評価 | VCファンド限定 |
| B | 構成資産(非上場株式)を時価評価 | VCファンド限定 |
| B’ | Bをオプション化 | VCファンド限定 |
| C | 全ての非上場株式を時価評価 | 全企業 |
| C’ | Cをオプション化 | 全企業 |
現時点では、
👉 「VCファンドに限定した範囲」での議論
が現実的な落としどころとされています。
6. 実務上、特に重要な2つの論点
① 「VCファンド」の線引きはどうする?
一口にVCといっても、
- バイアウトファンド
- インフラファンド
- 不動産ファンド
- 海外ビークル
など形態は多様です。
👉 どこまでを「VCファンド」とみなすのか
は、実務上かなり難しい問題です。
② 評価対象企業の財務諸表の信頼性
スタートアップの多くは、
- 会計監査を受けていない
- 内部統制が未整備
- 見積り要素が多い
状態にあります。
その数字を前提にした公正価値評価を、
どこまで厳密にやるべきかが大きな論点です。
7. 評価目的によって「厳密さ」は異なる
記事後半では、評価目的ごとの考え方が整理されています。
| 評価目的 | 求められる厳密性 |
|---|---|
| 取得価額・交換比率の決定 | 非常に高い |
| IFRSでの期末評価(OCI) | 中程度 |
| のれん減損テスト | 相対的に調整あり |
👉 「すべて同じレベルで厳密にやるべき」ではない
という点は、実務上とても重要です。
8. まとめ|非上場株式評価は「実務の成熟」がカギ
- 日本でも評価指針やガイドラインは整いつつある
- 問題は「実務の共通認識」がまだ十分でないこと
- 公正価値評価は目的・影響・コストを踏まえて使うもの
非上場株式の公正価値評価は、
スタートアップ投資・M&A・IFRS導入のすべてに関わる重要テーマです。
今後のASBJの動向を注視しつつ、
**評価を「目的に応じて使い分ける力」**が、会計・財務人材にはますます求められていくでしょう。