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譲渡損益の繰延べとは何か

完全支配関係のある内国法人間で資産を譲渡した場合、税務上は、その譲渡損益を直ちに認識せず、将来に繰り延べることがあります。これが、いわゆる譲渡損益の繰延べです。

画像にもあるとおり、内国法人が完全支配関係のある他の内国法人に対して資産の譲渡を行った場合には、当該資産の譲渡損益を繰り延べる必要があります(法人税法61条の11第1項)。そして、その資産について譲受法人側で譲渡、償却、評価換え、貸倒れ、除却その他これらに類する事由が生じた時点で、譲渡法人においてその譲渡損益が実現することになります(法人税法61条の11第2項)。

まず結論です。
グループ内で資産を動かしただけでは、税務上は「まだグループ外に出ていない」と考えられるため、譲渡損益をいったん繰り延べます。そして、外部譲渡や除却など、一定の実現事由が生じたときに、はじめて税務上の損益が表に出てきます。

なぜこの制度があるのか

この制度の趣旨は、グループ内で資産を移転しただけで含み益や含み損を自由に実現できるようにすると、税負担の調整が恣意的になりやすいためです。たとえば、グループ内の一方の会社に利益を出したい、あるいは損失を出したいという理由だけで資産を移せると、課税の公平が損なわれます。

そのため、完全支配関係のある法人間の資産譲渡については、税務上、損益の認識時期を後ろにずらす仕組みが設けられています。

まず整理したい論点

譲渡損益の繰延べは、組織再編税制の簿価引継ぎと似て見える部分もありますが、制度の仕組みは異なります。理解しやすくするため、まず本記事で扱う論点を整理します。

  • どのような取引が譲渡損益の繰延べの対象になるのか
  • 譲渡損益調整資産とは何か
  • 少額資産の特例とは何か
  • どの単位で1000万円以上かどうかを判定するのか
  • いつ繰延損益を戻し入れるのか
  • 適格合併や適格分割を行った場合にどうなるのか
  • 実務で注意すべき点は何か

譲渡損益の繰延べの対象となる取引

譲渡損益の繰延べの対象となるのは、完全支配関係のある内国法人間で、譲渡損益調整資産を譲渡した場合です。

要件内容実務上の確認ポイント
当事者内国法人同士であること外国法人が絡むと適用外になるため注意
関係性完全支配関係があること100%支配関係の有無を資本関係図で確認
対象資産譲渡損益調整資産であること固定資産・土地・有価証券・金銭債権・繰延資産等の該当性を確認
金額基準譲渡直前帳簿価額が1000万円以上少額資産の特例に該当しないか確認

完全支配関係とは

ここでいう完全支配関係とは、一般的には一方の法人が他方の法人の発行済株式の全部を直接または間接に保有するような関係をいいます。いわゆる100%グループ内での資産移転がイメージしやすいでしょう。

実務コメント
グループ内取引だからすべて自動的に繰延対象になるわけではありません。「関係会社」であることと、「完全支配関係」があることは別です。持株比率が100%未満なら、この制度の前提を満たさない可能性があります。

譲渡損益調整資産とは何か

画像の記載にもあるとおり、譲渡損益調整資産とは、概ね次のような資産です(法人税法61条の11第1項)。

  • 固定資産
  • 土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く)
  • 有価証券
  • 金銭債権
  • 繰延資産

逆にいえば、棚卸資産のように通常の販売取引により外部へ動いていく資産とは性質が異なり、含み損益の調整対象として把握しやすい資産が中心になっています。

資産区分譲渡損益の繰延べ補足
固定資産対象建物、機械装置、器具備品など
土地等対象土地、借地権など
有価証券対象株式等も含む
金銭債権対象貸付金、売掛金など
繰延資産対象税務上の繰延資産
棚卸資産通常は対象外制度の中心対象ではない

組織再編税制との違い

画像でも明確に説明されているとおり、この制度は組織再編税制とは仕組みが異なります。

組織再編税制では、適格再編成であれば資産や負債を簿価で移転することがありますが、譲渡損益の繰延べでは、資産や負債を簿価で譲渡するわけではありません。あくまで、譲渡法人側で生じた譲渡損益を税務上繰り延べるにすぎません。

比較項目譲渡損益の繰延べ適格組織再編
制度の場面完全支配関係法人間の資産譲渡合併・分割・現物出資等
資産移転の考え方譲渡自体はあるが損益認識を繰延べ簿価引継ぎが中心
損益の扱い譲渡法人でいったん繰延べ移転時点では原則課税繰延べ
含み損益の相殺防止グループ内損益調整として機能再編税制の個別規制が適用

この違いは非常に重要です。画像にもあるとおり、この制度では、一方の法人の繰越欠損金や資産の含み損と、他方の法人が保有する資産の含み益を相殺することはできません。そのため、非適格合併で問題となるような繰越欠損金の使用制限や特定資産譲渡等損失額の損金不算入とは、制度の発想が異なります。

実務コメント
M&Aやグループ内再編の検討資料では、「これは組織再編税制の論点か、それともグループ法人税制の譲渡損益繰延べの論点か」を切り分けることが大切です。ここを混同すると、条文の当て方も、税額試算の前提もずれてしまいます。

少額資産の特例とは何か

画像にあるとおり、譲渡損益の繰延べの対象となる資産は、譲渡直前の帳簿価額が1000万円以上のものとされています。つまり、帳簿価額が1000万円未満の資産については、原則として譲渡損益の繰延べの対象外です(法人税法61条の11第1項、法人税法施行令122条の12第1項第3号)。

これが、いわゆる少額資産の特例です。

帳簿価額繰延べ対象税務上の扱い
1000万円以上原則対象譲渡損益を繰り延べる
1000万円未満原則対象外譲渡時点で損益を認識する

なぜ少額資産は除外されるのか

制度趣旨としては、あまりに少額な資産まですべて繰延管理の対象にすると、申告実務や資産管理の負担が過大になるためです。一方で、帳簿価額が1000万円未満なら必ず納税者に有利になるというわけではありません。

画像でも説明されているとおり、帳簿価額が1000万円未満であれば、譲渡損失の金額が極端に大きくなることは考えにくい一方で、譲渡利益がそのまま課税されることはあり得ます。したがって、案件によっては納税者に不利となるケースもあります。

実務コメント
少額資産の除外は、管理負担の軽減という意味では合理的ですが、事業譲渡やグループ内の一括移転では、多数の資産の積み上げで課税インパクトが大きくなることがあります。1資産ごとの金額だけで安心しないことが重要です。

1000万円判定の評価単位

1000万円以上かどうかは、資産の種類ごとに一定の評価単位で判定します。画像では、法人税法施行規則27条の13の2、27条の15第1項を根拠として、その単位が整理されています。

区分評価単位実務上のイメージ
金銭債権債務者ごと貸付先・売掛先単位で判定
建物一棟ごと区分所有建物は部分ごと
機械及び装置一の生産設備、一台又は一基ごと通常一組一式ならその単位
その他の減価償却資産上記に準じて区分通常の取引単位を踏まえて判断
土地等一筆ごと一体利用の土地は一団で判定することあり
有価証券銘柄の異なるごと銘柄単位で集計
その他の資産通常の取引単位契約・取引実態に応じる

評価単位を誤ると結論が変わる

実務で非常に多いミスは、資産の単位を雑にまとめてしまうことです。たとえば土地を複数筆まとめて1物件として扱っているつもりでも、税務上は一筆ごとに判定する場面があります。逆に、一体として事業に供される土地については、単純に分割して判定しないこともあります。

また、有価証券は「銘柄の異なるごと」とされているため、同じ会社の株式であれば同一銘柄として整理する一方、別銘柄の有価証券と合算することはできません。

実務コメント
1000万円基準の判定は、税額計算より前の入口論点です。ここで単位を誤ると、「本来は繰延対象だった」「逆に本来は即時認識だった」というズレが生じ、申告修正の原因になります。

資産調整勘定は繰延べの対象になるのか

画像では、資産調整勘定についても触れられています。結論からいうと、資産調整勘定は、譲渡損益の繰延べの対象にはなりません

なぜなら、譲渡損益調整資産として列挙されているのは、固定資産、土地、一定の有価証券、金銭債権、繰延資産などであり、資産調整勘定はこれらに含まれていないからです。

また、営業権として扱えるのではないかという発想もあり得ますが、画像にもあるとおり、営業権の帳簿価額は0円であることが多く、譲渡直前帳簿価額1000万円未満に該当する場面が大半です。そのため、実務上も繰延べ対象になりにくいと整理できます。

項目繰延べ対象性理由
資産調整勘定対象外譲渡損益調整資産に列挙されていないため
営業権理論上検討余地はあるが通常は対象外に近い帳簿価額が0円で少額基準を満たさないことが多いため

いつ繰り延べた譲渡損益を戻し入れるのか

譲渡損益は永久に繰り延べられるわけではありません。譲受法人において、一定の事由が生じた時点で、譲渡法人側で繰り延べていた損益を戻し入れることになります。

画像にもあるとおり、その代表例は以下のような事由です。

  • 譲渡
  • 償却
  • 評価換え
  • 貸倒れ
  • 除却
  • その他これらに類する事由
戻入事由意味典型例
譲渡外部又は別法人への売却等グループ外への売却
償却減価償却資産等の費用化建物・機械の減価償却
評価換え一定の評価損益認識税務上の評価替え事由
貸倒れ金銭債権の回収不能貸付金の貸倒処理
除却資産を廃棄・除却老朽設備の除却

繰延べのイメージをシンプルに言うと

グループ内にある間は損益を温存し、資産がグループ外に出る、あるいはその価値が費用化・消滅する局面で、税務上の損益を表に出す、というイメージです。

実務コメント
税務申告だけでなく、固定資産台帳や有価証券管理表と連動させて、どの資産にどれだけ繰延譲渡損益が乗っているかを継続管理することが重要です。戻入事由が発生しても気づけなければ、申告漏れにつながります。

譲渡損益の繰延べを行った後に適格合併をした場合

ここは実務上かなり大切な論点です。画像では、完全支配関係内の譲渡損益の繰延べを行った後、譲受法人がその資産をさらに譲渡した場合や、適格組織再編成によって他法人へ移転した場合の取扱いが説明されています。

原則として、譲受法人が譲渡損益調整資産を譲渡した場合には譲渡損益が実現します。また、譲受法人がその資産を組織再編により他法人へ移転した場合も、原則として譲渡損益を実現すべき事由に含まれます(法人税法61条の11第2項)。

ただし、画像にもあるとおり、適格合併、適格分割、適格現物出資、適格現物分配により、完全支配関係のある法人へ譲渡損益調整資産を移転した場合には、それだけでは直ちに譲渡損益を計上しない取扱いが設けられています(法人税法61条の11第3項等)。

場面原則例外
譲受法人がその資産を外部譲渡譲渡損益を実現なし
譲受法人がその資産を再編で移転原則実現一定の適格再編かつ完全支配関係継続なら直ちには実現しない
譲渡法人が被合併法人となる適格合併通常は完全支配関係消滅で論点化一定の場合、合併法人で引き継いで管理

譲渡法人が被合併法人になるケース

画像後半では、譲渡法人を被合併法人とする適格合併についても説明されています。この場合、形式的には譲渡法人と譲受法人の完全支配関係がなくなるように見えることがありますが、被合併法人と合併法人との間に完全支配関係がある場合には、直ちに譲渡損益を実現しないよう配慮されています。

その結果、適格合併により合併法人へ引き継がれる資産または負債に、繰延譲渡損益が含まれることになります。つまり、繰延べていた損益そのものが、一定の形で引き継がれていくイメージです。

実務コメント
グループ内で資産譲渡をした後、さらに合併まで予定している案件では、「譲渡時点」「再編時点」「最終的な外部放出時点」の3段階で税務を追う必要があります。1回の取引だけ見ても正しい結論にたどり着けません。

有価証券についての注意点

画像の最後では、有価証券についての特則上の注意も示されています。譲渡損益調整資産が有価証券であり、かつ、その有価証券を発行している法人を被合併法人とする合併を行った場合には、一般の資産と同じような例外処理が必ずしも用意されていないケースがあります。

そのため、このような場面では、当該有価証券に係る譲渡損益が実現することがあります。実務上は、株式のグループ内譲渡後にその発行会社を吸収合併するケースなどで、想定外の戻入れが起こらないか事前確認が必要です。

論点注意点典型場面
有価証券の繰延損益発行法人を被合併法人とする合併で実現することがある子会社株式のグループ内移転後に子会社を吸収合併する場合

実務で確認すべきポイント

譲渡損益の繰延べは、条文を読んだだけではシンプルに見えますが、実務では管理項目が多く、申告実務と台帳管理が非常に重要です。以下のチェック表で整理しておくと便利です。

確認項目チェック内容必要資料の例
完全支配関係譲渡時点で100%支配があるか資本関係図、株主名簿
対象資産該当性譲渡損益調整資産か固定資産台帳、有価証券明細、債権一覧
少額資産判定帳簿価額1000万円以上か譲渡直前帳簿価額一覧
評価単位建物一棟、土地一筆、銘柄単位などで正しく判定しているか登記簿、資産管理資料、銘柄一覧
繰延損益の金額どの資産にいくら乗っているか税務管理表、申告別表
戻入事由の有無譲渡、償却、除却、貸倒れ等が起きていないか月次資料、除却稟議、売却契約書
その後の再編適格合併等で引継管理が必要か再編スキーム図、契約書案
有価証券特有論点発行法人の合併等で実現しないか株式移動表、合併資料

初心者の方が誤解しやすいポイント

グループ内売買なら全部税務上無視されるわけではない

税務上「なかったこと」にされるのではなく、譲渡損益をいったん繰り延べるだけです。後で戻し入れる場面が来ます。

完全支配関係でなければこの制度は使えない

単なる関連会社間取引では足りません。100%支配関係の確認が必要です。

1000万円基準は会社全体ではなく評価単位ごとに判定する

一括譲渡した場合でも、税務上は建物一棟、土地一筆、銘柄ごと等で分けて判定する必要があります。

適格合併をすれば自動的に全部消えるわけではない

適格再編後も、繰延譲渡損益が合併法人等へ引き継がれるケースがあります。管理の継続が必要です。

有価証券は特に注意が必要

発行法人を被合併法人とする合併など、一般資産とは少し違う動きをすることがあります。

まとめ

完全支配関係法人間の譲渡損益の繰延べは、グループ内で資産を動かしただけで含み益や含み損を自由に実現させないための重要な制度です。実務上は、次の順で整理すると理解しやすくなります。

  • まず、譲渡当事者間に完全支配関係があるかを確認する
  • 次に、その資産が譲渡損益調整資産に該当するかを確認する
  • そのうえで、譲渡直前帳簿価額1000万円以上かを評価単位ごとに判定する
  • 対象であれば、譲渡時点では損益を認識せず、税務上繰り延べる
  • 譲受法人で譲渡、償却、除却、貸倒れ等が起きた時点で戻し入れる
  • その後に適格合併等がある場合には、繰延損益の承継関係を確認する
  • 特に有価証券については例外的な実現場面がないか注意する

グループ会社間の資産移転は、会計上は通常の売買に見えても、税務上は将来に影響を残す処理になることが少なくありません。単年度の申告だけで終わらせず、台帳・別表・組織再編スケジュールと連動させて継続管理することが、最も重要な実務対応といえます。

根拠条文・参考資料

  • 法人税法61条の11第1項~第6項(完全支配関係がある法人の間の取引の損益の調整)
  • 法人税法施行令122条の12(譲渡損益の繰延べに関する細目)
  • 法人税法施行規則27条の13の2、27条の15(評価単位等)
  • 国税庁資料「グループ法人税制における譲渡損益の実現事由について」
  • 国税庁質疑応答事例「清算結了する場合におけるグループ法人税制で繰り延べた譲渡損益」
  • 国税庁グループ通算制度FAQ等の関連解説

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