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自己株式取得+第三者割当増資で株式譲渡益をみなし配当に組み替える方法|土地含み益会社のM&A税務を初心者向けに解説

土地の含み益が大きい会社や、利益剰余金が積み上がっている会社のM&Aでは、通常の株式譲渡だけで進めると、法人株主側に大きな株式譲渡益課税が生じることがあります。そこで実務上、被買収会社による自己株式取得と、買い手への第三者割当増資を組み合わせることで、売却対価の一部を株式譲渡益ではなく、みなし配当として整理し、税負担を軽くできないかが問題になります。本稿では、初心者にも分かるように、制度の考え方、計算式、数値例、仕訳、注意点、否認リスクまで、実務でそのまま確認しやすい形で整理します。

自己株式取得と第三者割当増資の税務整理

1.この方法はどのような場面で検討されるのでしょうか。

この方法は、被買収会社の株主が法人であり、通常の株式譲渡では大きな譲渡益が出る一方で、自己株式取得を使えば、その一部をみなし配当に振り替えられる場面で検討されます。

  • 通常の株式譲渡では、譲渡価額と株式簿価との差額が株式譲渡益になります。
  • これに対し、会社が自己株式を取得する場合、受け取る金額のうち一定額は資本の払戻し部分、残りはみなし配当として扱われます。
  • 法人株主であれば、みなし配当部分について受取配当等の益金不算入が使える可能性があります。
  • その結果、株式譲渡益として丸ごと課税されるより、税負担が下がることがあります。

吹き出しコメント
ポイントは、「同じ9,000百万円を受け取る」としても、全部が株式譲渡益になるのか、それとも一部がみなし配当になるのかで、法人株主の税額が変わる点です。

2.法令上、どの条文を確認すべきでしょうか。

まず確認すべき法令は、次のとおりです。

論点主な法令・資料実務上の意味
自己株式取得時のみなし配当法人税法24条1項5号、法人税法施行令23条1項6号法人株主において、自己株式取得対価のうち利益積立金相当額がみなし配当となる根拠です。
個人株主側のみなし配当所得税法25条1項5号、所得税法施行令61条2項6号個人株主の場合の配当課税の根拠です。法人株主と税効果が大きく異なります。
受取配当等の益金不算入法人税法23条、国税庁「第1節 受取配当等の益金不算入」法人株主のみなし配当をどこまで益金不算入にできるかを判断します。
自己株式取得の財源規制会社法461条分配可能額を超えて自己株式取得ができないため、買い取れる株数に実務上の上限が生じます。
租税回避否認法人税法132条、132条の2種類株式や一連取引により不自然に税負担を減らす設計は否認リスクがあります。

国税庁の公表資料でも、自己株式取得に伴うみなし配当や、受取配当等の益金不算入の考え方が整理されています。会社法461条の分配可能額規制も、実行可能性を左右する重要論点です。

3.みなし配当はどのように計算するのでしょうか。

実務でよく使う基本式は、次の考え方です。

3-1.基本式

みなし配当額 = 自己株式の譲渡対価 - 資本金等の額のうち払い戻された部分

簡便的には、次のように整理されます。

項目
みなし配当額売却対価 - (資本金等の額 × 譲渡株式数 ÷ 発行済株式総数)
株式譲渡対価として残る額売却対価 - みなし配当額
株式譲渡損益(売却対価 - みなし配当額)- 株式簿価

吹き出しコメント
税務上は、自己株式取得の受取額がすべて「株の売却代金」になるわけではありません。資本の払戻し部分みなし配当部分に分かれるため、ここが通常の株式譲渡との大きな違いです。

4.今回の数値例では、どのような税効果になるのでしょうか。

前提数値は次のとおりです。

前提金額(百万円)
対象会社の資産11,000
対象会社の負債8,000
純資産簿価3,000
株式譲渡価額9,000
売主法人の株式簿価100
実効税率30%

4-1.通常の株式譲渡だとどうなるでしょうか。

計算項目金額(百万円)
譲渡価額9,000
株式簿価100
株式譲渡益8,900
法人税等(30%)2,670

通常の株式譲渡では、8,900百万円がそのまま株式譲渡益となり、税負担は2,670百万円です。

4-2.自己株式取得を使うとどう変わるでしょうか。

例えば、設計次第で受領額9,000百万円のうち、8,900百万円をみなし配当、残る100百万円を資本払戻し部分と整理できれば、株式譲渡損益は次のようになります。

計算項目金額(百万円)
自己株式取得対価9,000
うちみなし配当8,900
うち譲渡対価部分100
株式簿価100
株式譲渡損益0

この場合、株式譲渡益8,900百万円が消え、課税関係の中心はみなし配当に移ります。

4-3.法人株主なら、なぜ有利になり得るのでしょうか。

法人株主では、みなし配当部分について受取配当等の益金不算入の適用を検討できます。持株割合や保有期間等に応じて取扱いは異なりますが、株式譲渡益として全面課税される場合より、税負担が軽くなることがあります。

比較項目通常の株式譲渡自己株式取得を活用した場合
課税の中心株式譲渡益みなし配当+残余の株式譲渡損益
譲渡益課税大きく出やすい圧縮できる可能性がある
益金不算入なしみなし配当部分に適用余地あり
法人株主との相性普通高い
個人株主との相性場合による一般に法人ほど有利ではない

5.第三者割当増資は、なぜセットで使われるのでしょうか。

自己株式取得だけでは、最終的に買い手へ支配権を移せないことがあります。そこで、被買収会社が売主から自己株式を取得した後、買い手に対して第三者割当増資を行い、買い手を新株主にする設計が使われます。

  • ステップ1:対象会社が既存株主から自己株式を取得する。
  • ステップ2:対象会社が買い手に第三者割当増資を行う。
  • ステップ3:買い手が対象会社の支配権を取得する。

この方法では、売主側ではみなし配当課税を活用しつつ、買い手側では株式取得を実現できます。

5-1.ただし、順番を変えると結果も変わるのでしょうか。

はい。第三者割当増資を先に行うと、1株当たりの資本金等の額が変動し、みなし配当額の計算結果が変わることがあります。そのため、税務上の狙いがある場合は、順序設計が極めて重要です。

吹き出しコメント
「自己株式取得を先にするか、第三者割当増資を先にするか」は、単なる手続順ではありません。みなし配当額そのものが変わる可能性があるため、契約・評価・議事録を一体で設計する必要があります。

6.会社法上、どのような制約があるのでしょうか。

実務上の最大の制約は、会社法461条の分配可能額規制です。

  • 自己株式取得は、原則として分配可能額の範囲内でしか実行できません。
  • そのため、買い手が想定する全株取得が、自己株式取得だけでは実現できないことがあります。
  • 特に、買い手が全株取得を希望していても、財源規制により、全部を買い戻せないケースがあります。
  • このため、実務では一部の大株主のみが自己株式取得に応じ、少数株主は残る設計になりやすいです。
実務論点内容
全株取得の可否分配可能額次第では困難です。
対象株主大株主のみ対象とし、少数株主を残す設計があり得ます。
必要資料分配可能額計算、株主総会・取締役会決議、評価資料が必要です。
資金手当対象会社側の資金準備が必要です。

7.種類株式を使うと、なぜ税負担をさらに下げられるといわれるのでしょうか。

理論上は、種類株式を組み合わせることで、資本金等の額の配分を調整し、みなし配当額を大きくする設計が考えられます。

ご提示の数値例では、普通株100百万円、優先株9,000百万円という資本構成を前提にすると、自己株式取得対価9,000百万円のほぼ全額をみなし配当に近づけ、残余を100百万円に抑えるイメージになります。

数値例金額(百万円)
自己株式取得対価9,000
資本払戻し部分100
みなし配当部分8,900
売主株式簿価100
残る株式譲渡損益0

このように、8,900百万円の株式譲渡益を、みなし配当へほぼ全面的に組み替える発想自体は理解しやすいものです。

7-1.しかし、そのまま安全に使える手法と考えてよいのでしょうか。

いいえ。ここは最も慎重に見るべき部分です。

  • 種類株式の発行目的が税負担軽減に偏りすぎていないか。
  • 経済合理性があるか。
  • 第三者との取引条件として自然か。
  • 一連取引全体でみて不自然な資本構成ではないか。
  • 法人税法132条、132条の2による否認対象となる余地がないか。

吹き出しコメント
税効果が大きいほど、「なぜその種類株式が必要だったのか」を説明できる資料が重要になります。税額だけを目的とした設計に見えると、否認リスクが高まります。

8.法人株主と個人株主では、なぜ結論が変わるのでしょうか。

この方法は、法人株主に特に相性がよい一方、個人株主では同じ発想がそのまま有利になるとは限りません。

株主属性みなし配当の扱いこの方法との相性
法人株主受取配当等の益金不算入の適用余地あり高い
個人株主配当課税の問題が前面に出る法人ほど高くない

したがって、株主が個人中心の案件では、自己株式取得方式が必ずしも最適とはいえません。株主属性の確認は最初に行うべきです。

9.仕訳はどのように整理すればよいのでしょうか。

実務では会計基準や個別事案で表示科目が異なるため、ここでは初心者向けに概念整理として示します。

9-1.対象会社が自己株式を取得する時の基本イメージ

会社借方貸方趣旨
対象会社自己株式 9,000現金預金 9,000売主株式を会社が買い取ります。

9-2.売主法人側の概念整理

会社借方貸方趣旨
売主法人現金預金 9,000関係会社株式 100簿価の取崩し
売主法人みなし配当益 8,900税務上のみなし配当認識
売主法人株式譲渡益 0残余の譲渡損益はゼロ

会計上の表示と税務上の区分は一致しないこともあるため、申告調整の要否まで含めて検討が必要です。

9-3.第三者割当増資を行う時の基本イメージ

会社借方貸方趣旨
対象会社現金預金 XXX資本金 XXX / 資本準備金 XXX買い手からの払込みを受け、新株を発行します。

10.この方法を検討する際、どの順番でチェックすべきでしょうか。

検討順は次の流れが実務的です。

  1. 売主が法人株主か個人株主かを確認する。
  2. 通常の株式譲渡をした場合の譲渡益課税額を計算する。
  3. 自己株式取得時のみなし配当額を計算する。
  4. 受取配当等の益金不算入の適用範囲を確認する。
  5. 会社法461条の分配可能額を確認する。
  6. 第三者割当増資の順序と1株当たり資本額の変動を確認する。
  7. 種類株式を使うなら、事業上の合理性と否認リスクを検討する。
  8. 通常の株式譲渡、事業譲渡、配当前払い方式と比較する。
比較スキーム売主税負担買い手税務メリット実務難易度
通常の株式譲渡大きくなりやすい小さい低い
配当前払い後の株式譲渡圧縮余地あり原則なし中程度
事業譲渡対象会社側課税あり資産調整勘定等のメリットあり高い
自己株式取得+第三者割当増資法人株主なら圧縮余地大株式取得自体は可能高い

11.結論として、どのように整理すべきでしょうか。

自己株式取得と第三者割当増資を組み合わせる方法は、法人株主の株式譲渡益を、みなし配当に組み替えて税負担を軽くするという点で、非常に強力な選択肢になり得ます。特に、通常の株式譲渡では8,900百万円の譲渡益が出るケースでも、設計次第ではその大部分をみなし配当に振り替え、残る譲渡損益をゼロ近くまで圧縮できる余地があります。

もっとも、実務では次の点を同時に満たす必要があります。

  • 法人株主であること。
  • 受取配当等の益金不算入の適用可否を確認できること。
  • 会社法461条の分配可能額制限をクリアできること。
  • 第三者割当増資のタイミングを適切に設計できること。
  • 種類株式を使う場合は、税務否認に耐える経済合理性があること。

そのため、理論上は有利でも、常に安全に使える万能策ではありません。税額だけでなく、会社法、会計、評価、契約実務、少数株主対応まで含めて総合判断することが重要です。

みなし配当スキームと実務判断のポイント

自己株式取得と第三者割当増資を用いた株式譲渡益の再構成――みなし配当化による税負担調整の実務

未実現の含み益や多額の利益剰余金を抱える会社を対象とするM&Aでは、単純な株式譲渡を採用すると、売主である法人株主に相応の株式譲渡益課税が生じます。こうした局面で検討対象となるのが、対象会社による自己株式取得と、買手に対する第三者割当増資を連続して実行し、売主の受領対価の一部又は大半をみなし配当へ再構成する方法です。

本手法の本質は、株式譲渡対価として受領したとみるのではなく、会社からの利益分配として把握し直す点にあります。法人株主であれば、みなし配当部分について受取配当等の益金不算入の射程が問題となるため、通常の譲渡益課税に比べて実効税負担を抑え得る余地があります。

1.制度の骨格

自己株式取得に際し、株主が受領する金額は、税務上、単純な株式譲渡代金ではありません。法人税法24条1項5号および法人税法施行令23条1項6号に基づき、当該対価は、資本金等の額の払戻し部分と、利益積立金額に対応するみなし配当部分に区分されます。

区分税務上の意味売主法人への影響
資本払戻し部分出資の回収株式譲渡対価として取り扱われ、簿価との差額で譲渡損益を認識します。
みなし配当部分利益の分配受取配当等として取り扱われ、益金不算入の適用可能性が生じます。

2.計算構造

実務上の理解としては、次式で足ります。

みなし配当額 = 自己株式取得対価 -(資本金等の額 × 取得対象株式数 ÷ 発行済株式総数)

そして、株式譲渡損益は、次のとおり導かれます。

株式譲渡損益 =[自己株式取得対価 - みなし配当額]- 当該株式簿価

したがって、みなし配当額が大きくなるほど、売主法人における株式譲渡益は縮小します。

3.数値例

前提は以下のとおりです。

項目金額(百万円)
資産11,000
負債8,000
純資産簿価3,000
株式売却価額9,000
売主の株式簿価100
実効税率30%

3-1.通常の株式譲渡

計算金額(百万円)
譲渡益9,000 − 100 = 8,900
税額8,900 × 30% = 2,670

3-2.自己株式取得を介在させた場合

仮に、9,000百万円の受領額のうち8,900百万円をみなし配当、100百万円を資本払戻し部分として構成できれば、譲渡損益は消滅します。

計算金額(百万円)
自己株式取得対価9,000
みなし配当額8,900
譲渡対価部分100
株式簿価100
株式譲渡損益0

この場合、課税の重心は株式譲渡益からみなし配当へ移ります。法人株主であれば、法人税法23条に基づく受取配当等の益金不算入の適用余地があるため、税負担の圧縮可能性が生じます。

4.第三者割当増資を併用する理由

自己株式取得のみでは、買手による支配権取得が完結しないことがあります。そこで、対象会社が自己株式を取得した後、買手に対して第三者割当増資を行い、買手を新たな支配株主とする設計が採られます。

  • 対象会社は既存株主から自己株式を取得する。
  • その後、買手に新株を割り当てる。
  • 結果として、買手が議決権を取得する。

もっとも、先に第三者割当増資を実行すると、1株当たり資本金等の額が変動し、みなし配当額の算定結果が変わり得ます。したがって、順序は税務効果そのものを左右します。

5.会社法上の実行可能性

本手法のボトルネックは、会社法461条の分配可能額規制です。対象会社は、分配可能額の範囲を超えて自己株式を取得できません。そのため、全株取得型の案件では実行可能性に限界があり、現実には大株主のみを対象に自己株式取得を行い、少数株主が残存するスキームとなる場面も少なくありません。

観点実務上の含意
分配可能額取得可能な自己株式数の上限を決めます。
少数株主対応全株取得を前提とする買手意向と整合しない場合があります。
資金調達対象会社自身に買戻し資金が必要です。

6.種類株式を用いる構成と否認リスク

種類株式を利用して資本金等の額の配分を調整し、みなし配当額を極大化する設計は、理論上は理解可能です。ご提示の例のように、普通株100百万円、優先株9,000百万円という資本構成を介在させれば、取得対価9,000百万円の大半をみなし配当として把握し、株式譲渡益をゼロに近づけることが考えられます。

しかし、この領域は最も慎重な検討を要します。すなわち、法人税法132条や132条の2の観点から、当該種類株式の発行や一連取引に事業上の合理性が乏しく、専ら税負担軽減を主目的とするものと評価されれば、否認のリスクを否定できません。

実務メモ
種類株式を用いる場合には、議決権設計、残余財産分配、配当優先条項、投資契約上の要請など、税務以外の合理的理由を資料として残すことが不可欠です。

7.簡易仕訳イメージ

7-1.対象会社による自己株式取得

借方貸方内容
自己株式 9,000現金預金 9,000対象会社が株主から自己株式を取得

7-2.売主法人側

借方貸方内容
現金預金 9,000関係会社株式 100株式簿価の消滅
みなし配当益 8,900税務上の配当認識

7-3.対象会社による第三者割当増資

借方貸方内容
現金預金 XXX資本金 XXX / 資本準備金 XXX買手から払込みを受けて新株発行

8.最終的な実務判断

本手法は、法人株主が保有する対象会社株式に大きな含み益があり、かつ受取配当等の益金不算入の恩恵を受け得る場合において、極めて有力な選択肢となります。他方で、次の要素がいずれも重要です。

  • 法人株主であること。
  • 益金不算入割合の確認が取れていること。
  • 会社法461条の財源規制を充足すること。
  • 第三者割当増資との順序設計が適切であること。
  • 種類株式を用いる場合に、十分な事業合理性が存在すること。

要するに、税効果の大きさだけで採用を決めるべき手法ではなく、会社法・契約・評価・会計・少数株主対応を含めた総合設計が前提となります。とりわけ、優先株等を介在させて譲渡益8,900百万円の全額をみなし配当に組み替える構成は、理論的な説明が可能である一方、実務上は否認リスクの精査なしに採用すべきではありません。

したがって、案件ごとの推奨順序としては、通常の株式譲渡配当前払い後の株式譲渡事業譲渡自己株式取得+第三者割当増資を同じ前提数値で比較し、税額だけでなく実行可能性まで含めて判断することが望ましいといえます。

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