総合評価における単独法・併用法・折衷法とは何か
企業価値評価では、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチなど、複数の評価手法が用いられます。しかし、どの手法にも長所と短所があるため、実務では一つの手法だけで機械的に結論を出すのではなく、複数の評価結果を比較・検討しながら最終的な評価額を導くことが少なくありません。
このような最終的な価値判断を行う場面で問題となるのが、総合評価の考え方です。日本公認会計士協会の経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」では、総合評価の方法として、単独法、併用法、折衷法の3つを示しています。
結論からいえば、単独法は一つの評価法だけを最終結論として用いる方法、併用法は複数の評価結果の重複する範囲や整合性を見ながら評価額を導く方法、折衷法は複数の評価結果に一定のウェイトを付けて加重平均する方法です。
| 方法 | 概要 | イメージ |
|---|---|---|
| 単独法 | 単独の評価法を適用し、その結果をそのまま最終評価とする | DCF法だけで結論を出す |
| 併用法 | 複数の評価法を適用し、重複する範囲や結果の整合性を考慮して評価額を導く | DCF法100~120、類似会社法110~130なら110~120を重視 |
| 折衷法 | 複数の評価結果に一定の折衷割合を付して加重平均する | DCF法60%、純資産法40%などで平均する |
初心者向けに一言でいうと: 単独法は「この方法が一番適切」と決める考え方、併用法は「複数の結果を見比べて重なるところを重視する」考え方、折衷法は「複数の結果を割合で混ぜる」考え方です。
そもそもなぜ総合評価が必要なのか
企業価値評価において総合評価が重要になるのは、それぞれの評価法に長所と短所があるからです。たとえば、インカム・アプローチは会社固有の収益力を反映しやすい反面、将来予測への依存が大きくなります。マーケット・アプローチは客観性に優れますが、比較対象が適切でなければ信頼性が落ちます。ネットアセット・アプローチは貸借対照表に基づくため分かりやすい一方、超過収益力やのれんを十分に反映しにくいという限界があります。
このように、各評価法は互いに欠点を補完し合う関係にあるため、実務では複数の評価結果を比較・検討しながら最終判断を行うことが一般的です。
| 評価アプローチ | 主なメリット | 主なデメリット |
|---|---|---|
| インカム・アプローチ | 対象会社固有の収益力や事業計画を反映しやすい | 将来予測の不確実性に左右されやすい |
| マーケット・アプローチ | 市場データを使うため客観性が比較的高い | 類似会社・類似事例が不適切だと信頼性が下がる |
| ネットアセット・アプローチ | 純資産に基づくため把握しやすく客観性がある | のれんや超過収益力を十分に反映しにくい |
ただし、だからといって必ず複数手法を混ぜなければならないわけではありません。状況によっては、一つの評価法だけを採用することが妥当な場合もあります。そこが、単独法・併用法・折衷法の使い分けを考える出発点になります。
単独法とは何か
単独法とは、単独の評価法を適用し、その結果をもって総合評価の結果とする方法です。たとえば、DCF法による評価結果が最も適切であり、他の手法による補完の必要性が低いと判断される場合には、DCF法の結果をそのまま最終評価額とすることがあります。
総合評価というと複数手法を必ず組み合わせる印象を持たれがちですが、実務上は、対象会社の状況や資料の信頼性、評価目的によっては、単独法がもっとも合理的なこともあります。
単独法が使われやすい場面
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 事業計画の信頼性が高く、将来収益力を重視すべき会社 | インカム・アプローチ単独が最も実態を反映しやすいため |
| 資産保有会社で純資産価値が中心となる会社 | ネットアセット・アプローチ単独が合理的な場合があるため |
| 市場価格が十分に形成されている上場会社 | 市場株価法を単独で重視する実務もあり得るため |
もっとも、単独法を採用する場合であっても、「なぜその方法だけで十分なのか」という理由付けは重要です。単独法はシンプルですが、その分、評価の前提や手法選定の妥当性を丁寧に説明する必要があります。
実務上のポイント: 単独法は「手抜き」ではありません。その手法がもっとも適切で、他の手法を無理に混ぜる必要がないと説明できる場合にこそ使いやすい方法です。
併用法とは何か
併用法とは、複数の評価法を適用し、それぞれの評価結果の重複等を考慮しながら評価結果を導く方法です。企業価値評価ガイドラインでは、特に「重複幅併用法」の考え方が示されています。
これは、複数の評価法によって一定のレンジで評価額が算定された場合に、その重なっている部分を評価額の目安とする考え方です。たとえば、フリー・キャッシュ・フロー法で100~120円、類似上場会社法で110~130円という結果が出たなら、両者の重複部分である110~120円を重視して評価する方法が典型例です。
併用法のイメージ
| 評価法 | 評価結果 |
|---|---|
| フリー・キャッシュ・フロー法 | 100~120 |
| 類似上場会社法 | 110~130 |
| 重複部分 | 110~120 |
このように、併用法では、それぞれの評価法の結果を「どちらが正しいか」と二者択一で考えるのではなく、両者に共通して示されるレンジに着目して最終判断を行います。
併用法のメリット
併用法のメリットは、複数の評価手法の結果を比較しながら、極端な偏りを避けやすい点にあります。一つの手法に依拠すると、将来予測の偏りや比較対象選定の問題などがそのまま最終結論に出てしまいますが、複数の評価法を見比べることで、評価の妥当性を立体的に把握しやすくなります。
- 複数の手法の結果を相互に検証できる
- 重複するレンジを使うことで極端な評価を避けやすい
- 一つの手法の弱点を他の手法で補いやすい
- 実務上、説明しやすい結論を導きやすい
実務感覚としては: 併用法は「複数の計算結果がだいたい同じ方向を向いているか」を確認しながら、無理のない結論を出す方法です。
併用法の注意点
もっとも、併用法は単に「重なったところを採ればよい」というほど単純ではありません。なぜなら、評価結果が近いからといって、両方の手法が本当に適切であるとは限らないからです。また、逆に結果が大きく乖離している場合には、その原因を分析せずに機械的に中間値を採るべきではありません。
そのため、併用法を採用する際には、なぜ差が生じたのか、どの手法のどの前提が影響しているのかを分析し、そのうえで最終判断を行う必要があります。
| 併用法で気を付けたい点 | 内容 |
|---|---|
| 結果の差異分析が必要 | 差が大きい場合はその原因を把握しなければならない |
| 両手法が適切とは限らない | どちらか一方が不適切な可能性もある |
| 形式的なレンジ採用は危険 | 重複部分があることだけで合理性が担保されるわけではない |
折衷法とは何か
折衷法とは、複数の評価法を適用し、それぞれの評価結果に一定の折衷割合、すなわち加重平均のウェイトを付して評価額を導く方法です。
たとえば、DCF法による評価額が120、時価純資産法による評価額が80であり、これらを60%対40%で折衷するといった形です。この場合、最終評価額は、120×60%+80×40%というように計算されます。
折衷法のイメージ
| 評価法 | 評価額 | ウェイト |
|---|---|---|
| DCF法 | 120 | 60% |
| 時価純資産法 | 80 | 40% |
| 加重平均後の評価額 | 104 | |
折衷法は、複数の評価法の結果が異なっているものの、どれか一つだけを採用するより、一定割合で加重平均した方が実態に近いと考えられる場面で使われやすい方法です。
折衷法のメリット
折衷法のメリットは、評価法ごとの特徴を一定程度織り込んで、バランスの取れた数値を導きやすい点にあります。たとえば、継続企業価値を重視しつつも、純資産価値も無視しにくいようなケースでは、折衷法が直感的に理解しやすい方法となることがあります。
- 複数の評価法の考え方を同時に反映できる
- 単独法では割り切りにくい場合に使いやすい
- 継続価値と純資産価値のバランスを表現しやすい
折衷法の最大の問題点
もっとも、折衷法には大きな問題があります。それは、折衷割合をどう決めるかについて、定まった客観的な方法が確立されていないという点です。
企業価値評価ガイドラインでも、折衷割合の決定は評価人の合理的な判断によることになるとしつつ、その方法は確立されていないと説明されています。つまり、折衷法は一見わかりやすい反面、最終的には評価人の主観に依存しやすい方法でもあります。
| 折衷法の問題点 | 内容 |
|---|---|
| ウェイトの客観性が乏しい | なぜ60%と40%なのかを明確に説明しにくいことがある |
| 評価人の主観が入りやすい | 恣意的な加重平均と見られるおそれがある |
| 形式的な平均に陥りやすい | 差異の原因分析をせずに数値だけ混ぜると不合理になり得る |
実務上の注意: 折衷法は便利に見えますが、「とりあえず平均しただけ」と受け取られると説得力を失います。割合の根拠が非常に重要です。
折衷割合はどのように考えるのか
ガイドラインでは、折衷割合の高低に関していくつかの考慮要素が例示されています。たとえば、評価対象会社が上場会社であれば市場株価法のウェイトが高くなりやすく、継続性が高いと期待される場合には、フリー・キャッシュ・フロー法や類似上場会社法などの継続価値を重視する手法のウェイトが高くなりやすいとされています。
反対に、継続性が低いと考えられる場合には、時価純資産法など純資産に基づいた評価法のウェイトが高くなる傾向があります。
折衷割合を考えるときの例
| 評価法 | ウェイトが高くなりやすい場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 市場株価法 | 上場会社で市場価格の信頼性が高い場合 | 株価の変動や出来高の少なさに注意が必要 |
| 配当還元法 | 一般株主の立場を重視する場合 | 政策的に無配の会社では慎重な検討が必要 |
| DCF法・類似上場会社法 | 継続企業としての価値を重視する場合 | 事業計画の不確実性や類似会社の適切性に注意 |
| 時価純資産法 | 継続性が低く、純資産価値の裏付けを重視する場合 | 時価評価の前提や換価可能性に注意が必要 |
ただし、こうした考慮要素があっても、最終的な割合はどうしても判断要素を含みます。そのため、実務上は、評価人が独断で割合を決めるのではなく、当事者間の交渉や合意結果を前提として、その割合を用いる方が望ましいと考えられる場面もあります。
総合評価の一般的な進め方
企業価値評価の実務では、総合評価に至るまでの流れとして、まずインカム・アプローチを第一義的に検討し、その結果をマーケット・アプローチで検証し、必要に応じてネットアセット・アプローチを代替的または補完的に用いる、という進め方がよくみられます。
これは、企業価値は本来将来のキャッシュ・フローに依存して決まるという理論的前提があるため、まずインカム・アプローチが中心になりやすいからです。そのうえで、マーケット・アプローチを用いて評価結果が市場感覚から大きく外れていないかを確認し、さらに収益予測が困難な場合や継続性に疑義がある場合にはネットアセット・アプローチを検討する、という流れになります。
総合評価の実務的な流れ
| 段階 | 考え方 |
|---|---|
| 第1段階 | インカム・アプローチを中心に企業価値を把握する |
| 第2段階 | マーケット・アプローチで相場観や客観性を検証する |
| 第3段階 | 必要に応じてネットアセット・アプローチを代替的・補完的に用いる |
| 最終判断 | 単独法、併用法、折衷法のいずれかで総合評価を行う |
単独法・併用法・折衷法の使い分け
それでは、3つの方法はどのように使い分けるのでしょうか。一般的には、ある一つの評価法が特に適切であり、他の手法の補完が不要な場合には単独法が使いやすくなります。複数の評価結果が近接しており、その重複範囲を評価額として示すのが自然な場合には併用法が使いやすくなります。複数の結果が異なっているものの、いずれも一定の合理性があり、加重平均した方が実態に近いと考えられる場合には折衷法が検討されます。
| 方法 | 向いているケース |
|---|---|
| 単独法 | 特定の評価法が最も適切で、単独で結論を出してよい場合 |
| 併用法 | 複数の評価結果が近く、重複レンジを評価額として示しやすい場合 |
| 折衷法 | 複数の結果にそれぞれ合理性があり、加重平均が妥当と考えられる場合 |
初心者向けに整理すると
- 単独法は、一番適している評価法を一つ選んで、そのまま最終結果にする方法です。
- 併用法は、複数の評価結果を見比べて、重なっている範囲や整合する部分を重視する方法です。
- 折衷法は、複数の評価結果を一定の割合で混ぜて平均する方法です。
- どの方法にも使いどころがありますが、特に折衷法は割合の根拠が重要です。
- 総合評価では、数値を混ぜる前に「なぜ差が出たのか」を分析することが大切です。
まとめ
総合評価における単独法とは、単独の評価法を適用し、その結果をそのまま最終評価とする方法です。併用法とは、複数の評価法を適用し、それぞれの評価結果の重複や整合性を考慮しながら評価結果を導く方法です。折衷法とは、複数の評価結果に一定の折衷割合、すなわち加重平均のウェイトを付して評価額を算定する方法です。
実務では、それぞれの評価法が持つ長所と短所を理解したうえで、複数の評価結果を比較・検討しながら最終判断を行うことが一般的です。ただし、常に複数手法を混ぜるべきというわけではなく、単独法が妥当な場面もあります。
また、併用法では重複レンジに着目するだけでなく、差異の原因分析が不可欠であり、折衷法では折衷割合の客観性と合理性が最大の論点になります。そのため、総合評価では単に数値をまとめるのではなく、どの評価法がどの前提のもとでどのような意味を持つのかを丁寧に整理することが重要です。
参考資料
・日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」(平成19年5月16日公表、平成25年7月3日改正)
・同ガイドラインでは、総合評価の方法として、単独法、併用法、折衷法を示し、それぞれの意義と適用場面を整理しています。