継続価値の算定と清算価値の算定は何が違うのか

企業価値評価では、同じ会社を評価する場合であっても、事業を今後も継続する前提で見るのか、それとも一定時期に事業を終了し清算する前提で見るのかによって、価値の捉え方が大きく変わります。

この違いを理解するうえで重要なのが、継続価値清算価値という考え方です。

結論からいうと、継続価値の算定は、会社が今後も事業を続けていくことを前提として、将来にわたり生み出されるキャッシュ・フローを基礎に価値を求める方法です。これに対して、清算価値の算定は、会社や事業を一定時点で終了させることを前提に、清算が完了するまでのキャッシュ・フローや処分価値を基礎に価値を求める方法です。

項目継続価値清算価値
前提事業が今後も継続する一定時期に事業を終了し清算する
価値の源泉将来にわたり継続的に生み出されるキャッシュ・フロー清算完了までのキャッシュ・フローと資産処分価値
典型的な考え方DCF法で継続価値を織り込む純資産法や清算前提の評価を行う
重視する点収益力、成長性、永続性換価可能額、追加費用、清算損失

初心者向けに一言でいうと: 継続価値は「今後も会社を続けるならいくらか」、清算価値は「会社をたたむなら最終的にいくら残るか」を考えるものです。

継続価値の算定とは

継続価値の算定は、企業が将来にわたって事業を継続することを前提に行う評価です。企業会計も一般に継続企業を前提として構築されており、企業価値評価でも同じ前提に立つことが通常です。

そのため、DCF法を用いる場合には、まず数年間の事業計画に基づいて将来のフリー・キャッシュ・フローを予測し、そのうえで予測期間経過後も事業が継続すると考えて、継続価値を算定します。

実務では、予測期間終了後のフリー・キャッシュ・フローが一定の成長率で永続すると仮定して、継続価値を求めることが一般的です。つまり、継続価値は、予測期間後に残る企業の将来収益力をまとめて表現したものといえます。

継続価値のイメージ

区分内容
予測期間事業計画に基づく数年間のフリー・キャッシュ・フローを個別に見積もる
予測期間後事業継続を前提に継続価値を算定する
評価の着眼点将来の収益力、成長性、資本コストとの関係

したがって、継続価値の算定では、単に現在保有している資産の売却価額を見るのではなく、その会社が今後どれだけ稼ぎ続けられるかが中心的な評価要素になります。

清算価値の算定とは

これに対して、清算価値の算定は、一定時期に事業を終了し、資産を処分して会社を清算することを前提に行う評価です。

この場合、継続企業として永続的にキャッシュ・フローを生み出すという前提は置きません。したがって、評価の中心は、清算完了までにどのようなキャッシュ・フローが発生するか、そして資産や負債を最終的にどのような金額で処分・決済できるかに移ります。

清算価値といっても、単純に貸借対照表上の純資産額を見れば足りるわけではありません。実際には、資産売却に伴う値引き、仲介手数料、退職金、事業停止までの運転資金負担、契約解約費用など、さまざまな追加支出や損失を見込む必要があります。

清算価値で重視される要素

要素内容
資産の換価額売却時の時価、早期処分による値下がりの有無
追加費用売却手数料、退職金、違約金、清算関連費用
継続中の損失清算完了までに発生する営業損失や維持コスト
負債処理債務返済や清算に伴う支出の見積り

実務上の注意: 清算価値は「資産の合計額」ではなく、「実際に清算したら最終的にどれだけ回収できるか」を見る評価です。そのため、簿価純資産よりかなり低くなることもあります。

両者は評価アプローチがまったく別というわけではない

継続価値と清算価値は前提条件が大きく異なりますが、どちらも将来のキャッシュ・フローを考慮するという点では共通しています。そのため、理論上は、いずれについてもインカム・アプローチの考え方を用いる余地があります。

もっとも、継続価値では永続的な事業継続を前提にするのに対し、清算価値では清算完了までの有限期間しか見ません。そのため、同じDCF法という言葉を使う場合でも、前提となる事業計画、終価の考え方、割引率の合理性、追加コストの織り込み方などに大きな違いが生じます。

比較項目継続価値清算価値
事業計画継続的な事業運営を前提とした計画撤退・処分・終了を前提とした計画
終価の考え方永続成長を前提とした継続価値最終処分価値・残余価値
主なリスク成長率や収益予測の妥当性換価額や清算費用見積りの不確実性
使いやすい局面通常の事業継続企業撤退・再建・破綻懸念がある企業

継続企業の前提があるかどうかが出発点になる

継続価値と清算価値のどちらを重視すべきかは、まずその企業について継続企業の前提を採ることが適切かどうかで判断します。

通常の企業価値評価では、企業会計と同様に継続企業を前提とするのが一般的です。そのため、多くの実務では、まず継続価値を基礎とした評価が検討されます。

しかし、資金繰りの悪化、債務超過、金融支援の不確実性、主要取引先の喪失、事業継続可能性への重大な疑義などがある場合には、継続企業の前提そのものが揺らぎます。そのような場合には、継続価値をそのまま前提にすることが適切でない可能性があります。

継続企業の前提に疑義が生じやすい例

状況評価上の影響
継続的な営業赤字将来計画の信頼性が低下する
資金繰りの悪化継続前提の事業運営が困難になる
債務超過・返済困難清算や再建前提の評価が必要になることがある
主要取引先や主要仕入先の喪失将来キャッシュ・フローの前提が不安定になる

つまり、評価手法の選択以前に、そもそも事業を続ける前提で評価してよいのかという点が重要な出発点になります。

継続企業の前提に疑義がある企業をどう評価するか

ここが実務上もっとも悩ましいところです。継続企業の前提に疑義がある企業については、会計上、その状況が注記されることがあります。しかし、だからといって直ちに清算計画が確定しているとは限りません。

実際には、継続に向けた再建努力を行っているものの、将来計画の実現可能性には大きな不確実性がある、というケースが少なくありません。この場合、継続前提の事業計画をそのまま所与としてDCF法を適用することは難しい一方で、清算計画も明確でないため、完全な清算価値評価にもなりにくいという難しさがあります。

このような企業で考えられる評価方法

方法概要実務上の位置付け
純資産法資産・負債を時価等で評価し純額を求める最も現実的な対応となることが多い
清算前提DCF清算完了までのキャッシュ・フローを見積もる理論上は可能だが前提設定が難しい
併用法純資産法とインカム・アプローチを組み合わせる多角的分析の観点から検討余地がある

純資産法を用いる場合の実務上の注意点

継続企業の前提に疑義がある場合、インカム・アプローチの適用が困難であり、マーケット・アプローチも比較対象の確保や前提整合性の点で難しいことが少なくありません。そのため、純資産法が現実的な選択肢になりやすいといえます。

ただし、この場合に注意しなければならないのは、単に時価純資産を機械的に求めればよいわけではないということです。清算や撤退を見据えるのであれば、再調達時価よりも清算時価の方が実態に近い場合があります。また、資産や負債の処分に要する追加的な支出や損失も考慮しなければなりません。

純資産法で追加的に考慮すべきもの

項目具体例
資産売却コスト仲介手数料、処分費用、撤去費用
事業終了コスト退職金、解約違約金、閉鎖費用
継続中の損失清算完了までの営業損失、固定費負担
評価減在庫評価損、設備の換価減額、不動産の早期売却ディスカウント

このように、本来は純資産法であっても、清算に向かう過程で生じる不利益を一定程度織り込む必要があります。

実務上の落とし穴: 清算を前提としながら、資産は通常の時価で評価し、清算費用や将来損失を見落とすと、評価額が過大になりやすくなります。

純資産法には限界もある

もっとも、継続企業の前提に疑義がある企業で純資産法を使う場合には限界もあります。そもそも、インカム・アプローチを使えない理由の一つは、将来予測が難しいからです。そうである以上、撤退から清算完了までに発生する損失や費用を正確に見積もることも容易ではありません。

そのため、実務では、発生可能性が高い支出や損失だけを織り込んで評価することがありますが、その場合、純資産法による評価額はなお過大になっている可能性があります。

純資産法の長所純資産法の限界
比較的客観的に把握しやすい清算完了までの損失を十分に織り込みにくい
将来計画への依存が小さい事業停止までの不確実性を反映しにくい
再建困難企業でも適用しやすい評価額が過大になるおそれがある

清算が決定している場合はインカム・アプローチを使う余地もある

仮に、事業の清算がすでに決定されている場合には、清算結了までの具体的な事業計画や処分計画に基づいて、インカム・アプローチを適用する余地があります。つまり、将来のキャッシュ・フローを見積もるという点では、清算価値についてもDCF的な考え方を使うことは可能です。

ただし、この場合でも難しい論点があります。たとえば、通常の継続企業に用いる割引率を、清算中の企業にそのまま適用してよいのかという問題です。清算局面ではリスク構造が異なるため、継続企業の株価変動等から求められる割引率が、そのまま合理的とは限りません。

そのため、理論的には清算前提DCFが可能であっても、客観性や確実性の観点からは、これだけに依拠することが望ましくない場合があります。

インカム・アプローチと純資産法を併用する考え方

こうした事情から、実務では、理論的な一貫性だけにこだわるのではなく、異なる評価アプローチを組み合わせて多角的に分析することがあります。具体的には、インカム・アプローチと純資産法を併用して、事業継続の可能性と清算可能性の双方を踏まえて評価を行う方法です。

たとえば、一定の条件が満たされた場合にはDCF法による評価額を採用し、そうでない場合には純資産法による評価額を採用し、それぞれを発生確率で加重平均するという考え方があります。このような手法は、継続と清算のどちらか一方に単純に割り切れない企業の評価において、一定の意味を持ちます。

併用の考え方内容
継続シナリオ再建成功・事業継続を前提にDCF法で評価する
清算シナリオ撤退・資産処分を前提に純資産法等で評価する
最終評価各シナリオの発生確率を考慮して加重平均する

企業価値評価ガイドラインにおける清算価値の考え方

日本公認会計士協会の経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」では、清算価値について、ネットアセット・アプローチによる静態的な価値評価として整理しています。

そのうえで、清算価値を大きく非強制処分価値強制処分価値に分けて考えています。

清算価値の区分

区分内容評価上の特徴
非強制処分価値通常の処分期間で資産売却等が可能な場合大幅なディスカウントは不要だが、手数料や退職金等のコストは見込む必要がある
強制処分価値債権者対応等により早急な処分が必要な場合早期処分による大幅な減額や追加コストを見込む必要がある

つまり、同じ清算価値でも、時間的な余裕があるかどうかで大きく結果が変わります。通常の売却期間を確保できるなら、相対的に有利な価格で資産処分できる可能性がありますが、資金繰り逼迫や債権者対応のために短期間で売却せざるを得ない場合には、大幅な値引きが必要になることがあります。

実務感覚としては: 「清算価値」と一言でいっても、通常処分か、急いで売る強制処分かで、まったく違う数字になることがあります。

継続価値と清算価値を比較するときの実務上の見方

実務では、継続価値と清算価値のどちらが高いかを比較する場面があります。たとえば、事業再生、スポンサー選定、M&A、裁判上の価格決定、金融機関との協議などです。

このとき大切なのは、単純な金額比較だけではなく、その価値がどの前提で算定されたものかを確認することです。継続価値は事業継続に伴う収益力を前提にしている一方で、清算価値は処分可能額と追加費用を前提にしています。したがって、前提条件が違う以上、数字の意味も異なります。

比較時のチェックポイント

確認項目見るべきポイント
継続可能性事業継続の前提に現実性があるか
事業計画の信頼性継続価値の基礎となるキャッシュ・フロー予測は妥当か
換価額の妥当性清算価値で見込む資産売却額は現実的か
追加コスト退職金、処分費用、違約金等を十分見込んでいるか
処分の緊急性非強制処分か強制処分か

初心者向けに整理すると

  • 継続価値は、会社がこれからも事業を続ける前提で計算する価値です。
  • 清算価値は、会社をたたむ前提で最終的にどれだけ残るかを見る価値です。
  • 継続価値では将来の収益力が重要です。
  • 清算価値では資産の売却額や清算コストが重要です。
  • 継続企業の前提に疑義がある会社では、純資産法や併用法が現実的になることがあります。

まとめ

継続価値の算定と清算価値の算定の違いは、何よりも評価の前提にあります。継続価値は、事業が永続することを前提に、将来にわたって生み出されるキャッシュ・フローを基礎に価値を求めます。これに対して清算価値は、一定時期に事業を終了することを前提に、清算完了までのキャッシュ・フローや資産処分価値、追加コストを踏まえて価値を求めます。

通常の企業価値評価では継続企業を前提とすることが一般的ですが、継続企業の前提に疑義がある企業では、継続価値のみで評価することが適切でない場合があります。そのような場面では、純資産法、清算前提のインカム・アプローチ、あるいは両者の併用などを検討する必要があります。

また、清算価値を考える場合でも、通常の処分が可能な非強制処分価値なのか、早期売却を迫られる強制処分価値なのかによって結果は大きく変わります。したがって、企業価値評価では、単に「継続価値か清算価値か」を選ぶだけでなく、その前提条件と見積りの内容を丁寧に確認することが極めて重要です。


参考資料
・日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」(平成19年5月16日公表、平成25年7月3日改正)
・同ガイドラインでは、清算価値についてネットアセット・アプローチによる静態的な価値評価として整理し、非強制処分価値と強制処分価値に区分している。強制処分価値の算定にあたっては、資産の早期処分による減額および追加的な支出を見込むべきとされている。

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