経過措置医療法人の持分評価とは?評価方法・規模区分・相続時の留意点をわかりやすく解説

持分あり社団医療法人、いわゆる経過措置医療法人では、相続や事業承継の場面で「持分をいくらで評価するのか」が大きな論点になります。特に病院や介護施設を運営する医療法人では、土地建物や事業用資産の規模が大きいため、持分評価額が非常に高額になることもあります。

もっとも、医療法人の持分評価は、一般の会社の株式評価と似ているようでいて、実は異なる点も少なくありません。配当還元方式が使えないこと、議決権割合を見ないこと、比準要素が限定されていることなど、医療法人特有のルールがあります。

本稿では、経過措置医療法人の持分評価について、評価の基本構造規模区分具体的な評価方法相続時の留意点を順に整理します。

1.経過措置医療法人の持分評価の基本

(1)評価の根拠は財産評価基本通達194-2

経過措置医療法人の持分評価は、財産評価基本通達194-2「医療法人の出資の評価」に基づいて行います。考え方としては、取引相場のない株式の原則的評価方法に準じる形です。

ただし、医療法人は株式会社とは制度設計が異なるため、完全に同じ評価方法ではありません。まずは、対象法人を大会社・中会社・小会社のいずれに区分するかを判定し、その規模に応じて評価方式を選びます。

(2)まず規模区分を決める

持分評価の出発点は、医療法人の規模判定です。規模区分の判定には、主に次の3つの要素を使います。

  • 従業員数
  • 総資産価額
  • 年間の取引金額

この3要素に基づき、医療法人を大会社・中会社・小会社に区分し、その区分に応じて、類似業種比準価額方式、純資産価額方式、またはその併用方式を使って評価します。

2.規模区分の考え方

(1)まず従業員数70人以上なら大会社

医療法人の規模区分では、まず課税時期の直前期末以前1年間の従業員数が70人以上であれば、大会社に区分されます。

70人未満の場合には、さらに総資産価額と年間取引金額を用いて判定します。

(2)中会社・小会社の判定

中会社・小会社の区分では、直前期末の総資産価額(帳簿価額)および従業員数、または直前期末以前1年間の取引金額に応じて、Lの割合を判定します。

区分主な基準Lの割合
中会社「大」総資産5億円以上かつ従業員35人超、または取引金額5億円以上20億円未満0.90
中会社「中」総資産2億5,000万円以上かつ従業員20人超、または取引金額2億5,000万円以上5億円未満0.75
中会社「小」総資産4,000万円以上かつ従業員5人超、または取引金額6,000万円以上2億5,000万円未満0.60
小会社上記に該当しない場合

なお、中会社のL割合は、「総資産価額・従業員数による割合」と「取引金額による割合」のいずれか大きい方を採用します。

コメント
規模区分を誤ると、その後の評価方式全体がずれてしまいます。特に医療法人では、病院・老健・介護医療院を含む場合に取引金額や従業員数が大きくなりやすく、会社規模の判定を丁寧に行う必要があります。

3.医療法人の持分評価が会社の株式評価と違う点

医療法人の持分評価は、取引相場のない株式の評価に準じるものの、制度上の違いから次のような特徴があります。

項目医療法人の取扱い
配当還元方式適用しない
議決権割合の判定不要
比準要素利益金額と純資産価額の2要素のみ
業種判定「その他の産業」を適用
純資産価額方式の20%評価減適用なし

これは、医療法人には上場がなく、剰余金配当も認められておらず、社員の議決権も原則1人1個で平等とされているためです。

4.規模区分ごとの評価方法

(1)大会社の評価

大会社では、次のいずれか低い金額で評価します。

  • 類似業種比準価額
  • 純資産価額

(2)中会社の評価

中会社では、次のいずれか低い金額で評価します。

  • 類似業種比準価額×L + 純資産価額×(1-L)
  • 純資産価額

Lの割合は、会社規模に応じて0.90、0.75、0.60を使います。

(3)小会社の評価

小会社では、次のいずれか低い金額で評価します。

  • 類似業種比準価額×0.50 + 純資産価額×0.50
  • 純資産価額
規模区分評価方法
大会社類似業種比準価額 または 純資産価額のいずれか低い額
中会社類似業種比準価額×L+純資産価額×(1-L) または 純資産価額のいずれか低い額
小会社類似業種比準価額×0.50+純資産価額×0.50 または 純資産価額のいずれか低い額

5.類似業種比準価額方式のポイント

医療法人の類似業種比準価額方式では、一般会社と異なり、比準要素は利益金額純資産価額の2つです。業種は「その他の産業」を用います。

また、斟酌率は次のとおりです。

  • 大会社:0.7
  • 中会社:0.6
  • 小会社:0.5

出資口数は、1口当たり50円換算で求める点も実務上のポイントです。

初心者向け補足
類似業種比準価額方式は、「似た規模・業種の会社の株価水準」を参考に評価する考え方です。ただし、医療法人では配当要素を使わないため、一般会社の株価評価よりも構造がやや簡略化されています。

6.純資産価額方式のポイント

純資産価額方式では、相続税評価額ベースで算定した総資産価額から負債額を控除し、必要な調整を行って1口当たりの価額を求めます。

ここで実務上注意したいのは、一般会社の評価で見られる20%評価減が適用されない点です。そのため、不動産や事業用資産を多く保有する医療法人では、純資産価額がかなり高額になりやすい傾向があります。

7.特定の評価会社に該当する場合の取扱い

経過措置医療法人であっても、すべてが通常の大会社・中会社・小会社の評価ルールにそのまま乗るわけではありません。たとえば、次のような特定の評価会社に該当する場合には、別の評価方法が問題になります。

  • 比準要素数1の会社
  • 株式保有特定会社に準ずる会社
  • 土地保有特定会社に準ずる会社
  • 開業後3年未満の会社等
  • 休業中・開業前の会社
  • 清算中の会社

このような場合には、原則的評価方法とは異なる計算となることがあるため、形式的に規模区分だけで判断せず、特定会社該当性の確認が必要です。

8.相続時に「出資」と「払戻請求権」のどちらになるか

(1)相続人が社員として地位を承継する場合

経過措置医療法人の社員が死亡した場合でも、相続人が持分を承継し、社員としての地位を有する場合には、相続財産は医療法人の出資となります。この場合、問題になるのは本稿で解説した持分そのものの評価です。

(2)払戻請求を行う場合

これに対し、死亡により退社した社員の相続人が、医療法人に対して持分払戻し請求を行う場合には、相続財産は払戻請求権となります。

つまり、同じ「持分あり医療法人」であっても、相続の結果として取得する財産が、

  • 出資そのものなのか
  • 払戻請求権なのか

で、法的整理や実務対応の方向性が変わる点に注意が必要です。

コメント
相続発生後に「後継者として持分を持ち続けるのか」「法人に払戻しを求めるのか」で、評価だけでなく法人経営への影響も大きく変わります。税務と承継方針はセットで検討すべきです。

9.持分評価で特に留意したい実務ポイント

留意点実務上の意味
規模区分の判定従業員数・総資産価額・取引金額の確認を誤らないこと
特定会社該当性比準要素数1、土地保有特定会社等に該当しないか確認すること
純資産価額の高騰不動産や医療設備を多く持つ法人では評価額が高くなりやすい
相続財産の種類出資か払戻請求権かで整理が変わる
承継対策との連動評価結果を持分なし移行、納税資金対策、払戻リスク対策につなげる必要がある

10.まとめ|持分評価は「税額計算」のためだけでなく「承継判断」のために行う

経過措置医療法人の持分評価は、財産評価基本通達194-2に基づき、取引相場のない株式の原則的評価方法に準じて行われます。もっとも、医療法人には、配当還元方式がない、議決権割合を見ない、比準要素が2つだけといった特有のルールがあります。

実務では、まず規模区分を正しく判定し、そのうえで類似業種比準価額方式、純資産価額方式、または併用方式を使って評価します。また、特定会社該当性の確認も欠かせません。

さらに重要なのは、持分評価が単なる相続税計算のための作業ではないという点です。評価額を把握することで、

  • 相続税負担に耐えられるか
  • 払戻請求が起きた場合に法人が耐えられるか
  • 持分なし移行を検討すべきか

といった、事業承継上の重要な経営判断が可能になります。

そのため、経過措置医療法人では、相続が起きてから初めて評価するのではなく、平時から持分評価を定期的に行い、承継対策と一体で検討することが重要です。

11.根拠・参照ポイント

  • 財産評価基本通達194-2(医療法人の出資の評価)
  • 財産評価基本通達189、189-2、189-3、189-4、189-5、189-6
  • 医療法人の持分評価に関する規模区分判定ルール
  • 医療法人における出資と払戻請求権の相続財産区分

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