組織再編における株主課税とは何か
組織再編では、会社同士の間で資産や負債、事業、株式などが移転します。しかし、税務上の影響を受けるのは会社だけではありません。被合併法人や分割法人、完全子法人の株主に対しても、課税関係が生じることがあります。
画像でも示されているとおり、合併を行った場合には、被合併法人の株主等が保有している被合併法人株式に対して合併対価資産が交付されることになります。そのため、被合併法人や合併法人だけでなく、被合併法人の株主等にも課税関係を生じさせる必要があることになります。これは、分割型分割を行った場合も同様です。
ポイントを先にいうと、
組織再編の株主課税では、主に次の2つが問題になります。
- みなし配当が発生するか
- 株式譲渡損益が発生するか
この2つが、再編類型ごとに、また適格・非適格や対価の内容によって変わります。
この記事で整理する論点
本記事では、株主課税の理解に必要な論点を、次の順で整理します。
- 株主課税で問題になる「みなし配当」と「株式譲渡損益」の基本
- 合併・分割型分割における株主課税
- 適格・非適格で何が変わるのか
- 金銭等の交付がある場合とない場合の違い
- 株式交換・株式移転における株主課税
- 株主間贈与が生じる場合の注意点
- 実務で再編スキームを検討するときのチェックポイント
株主課税の基本となる「みなし配当」と「株式譲渡損益」
組織再編における株主課税を理解するためには、まずみなし配当と株式譲渡損益の違いを押さえる必要があります。
| 項目 | 内容 | 主な根拠条文 |
|---|---|---|
| みなし配当 | 会社法上の配当ではないが、税務上は利益の分配に近いとして配当とみなされるもの | 法人税法24条1項、所得税法25条1項 |
| 株式譲渡損益 | 株主が保有していた株式を譲渡したものとして計算される利益又は損失 | 法人税法61条の2、所得税法57条の4等 |
簡単にいえば、株主が受け取る対価のうち、利益の分配と考えられる部分が「みなし配当」、元の株式を譲渡したことに伴うキャピタルゲイン・キャピタルロスが「株式譲渡損益」です。
実務コメント
再編案件では、会社側の時価評価や適格要件の検討に意識が集中しがちですが、株主側でみなし配当が発生すると、想定以上に税負担が重くなることがあります。特にオーナー企業では、この株主課税がスキーム選定の決定打になることも少なくありません。
合併・分割型分割ではなぜ株主課税が問題になるのか
合併では、被合併法人の株主が保有していた被合併法人株式に対し、合併法人株式や金銭等の合併対価が交付されます。分割型分割でも、分割法人の株主に対し、分割承継法人株式などが交付されます。
つまり、株主の立場から見ると、今まで持っていた株式が消滅し、その代わりに別の資産を受け取ることになります。税務上は、この変化をどう評価するかが問題になります。
| 再編類型 | 株主に起こること | 株主課税の論点 |
|---|---|---|
| 合併 | 被合併法人株式が消滅し、合併対価を受領 | みなし配当、株式譲渡損益 |
| 分割型分割 | 分割法人株主が承継法人株式等を受領 | みなし配当、株式譲渡損益 |
| 株式交換 | 完全子法人株式を譲渡し、完全親法人株式等を受領 | 原則は譲渡損益、特例で繰延べあり |
| 株式移転 | 完全子法人株式を譲渡し、完全親法人株式を受領 | 原則は譲渡損益、特例で繰延べあり |
非適格合併・非適格分割型分割では株主課税が重くなりやすい
画像でも明示されているとおり、非適格合併または非適格分割型分割を行った場合には、被合併法人の株主等または分割法人の株主等において、みなし配当が発生する点に大きな特徴があります(法人税法24条1項、所得税法25条1項)。
金銭等の交付がない場合
画像の整理によれば、非適格合併で金銭等の交付がない場合には、株主側ではみなし配当が発生します。
| 非適格合併・非適格分割型分割 | 金銭等の交付 | みなし配当 | 株式譲渡損益 |
|---|---|---|---|
| あり | なし | 発生する | 通常は問題にならない整理が中心 |
| あり | あり | 発生する | 発生する |
金銭等の交付がある場合
これに対し、金銭等の交付がある場合には、画像の説明どおり、みなし配当に加え、株式譲渡損益も発生する課税関係となります。
つまり、非適格再編では、株主側で二段構えの課税問題が生じる可能性があるわけです。
実務コメント
非適格合併や非適格分割型分割は、会社側だけ見れば実行可能に見えることがあります。しかし、株主側にみなし配当が発生すると、個人オーナーに高額の税負担が生じることがあり、結果として実務上採用しにくいケースが少なくありません。
適格合併・適格分割型分割ではどうなるのか
画像にあるとおり、これに対して適格合併または適格分割型分割を行った場合には、原則としてみなし配当は発生しません(法人税法24条1項、所得税法25条1項)。
さらに、合併法人株式または分割承継法人株式のみの交付を受けた場合には、株式譲渡損益も発生しないとされています(法人税法61条の2、所得税法57条の4関係)。
| 適格合併・適格分割型分割 | 交付対価 | みなし配当 | 株式譲渡損益 |
|---|---|---|---|
| 適格 | 株式のみ | 発生しない | 発生しない |
| 適格 | 金銭等あり | 通常は発生しない整理が基本 | 金銭等部分について問題となる |
なぜ課税されないのか
株主が受け取るのが再編後の株式だけであれば、株主の経済的地位は形式的に変わっていても、実質的には投資が継続していると考えられます。そのため、税務上も、直ちに譲渡益課税を行わず、課税を将来に繰り延べる考え方が採られています。
実務コメント
「適格なら株主課税は出にくい」「非適格だと株主課税が出やすい」というのが大づかみの理解として有効です。実務では、この違いがあるため、非適格合併や非適格分割型分割を避ける方向でスキームが組まれることが多くなります。
実務上、非適格合併・非適格分割型分割が使いにくい理由
画像でも、「被合併法人の株主等または分割法人の株主等におけるみなし配当の問題から、実務上、非適格合併及び非適格分割型分割を行うことができないことが多い」と整理されています。
これは非常に実務的な指摘です。会社側の税負担だけでなく、株主側の課税まで含めて考えると、非適格再編は税務コストが高くなりやすく、特に次のような場面で問題になります。
- 個人オーナー株主が多い場合
- 被合併法人に利益積立金が多く残っている場合
- 再編対価に金銭等が含まれる場合
- 株主の資金繰り上、納税資金を確保しづらい場合
| 実務上の論点 | 問題になりやすい理由 |
|---|---|
| みなし配当 | 配当所得課税・法人の受取配当益金不算入等の整理が必要 |
| 株式譲渡損益 | 譲渡益課税が発生しうる |
| 納税資金 | 株式対価中心なのに税金だけ先に発生することがある |
株式交換・株式移転における株主課税
次に、画像後半にある株式交換及び株式移転です。
株式交換または株式移転を行った場合には、完全子法人の株主が完全子法人株式を譲渡し、その対価を受領したものと考えるため、原則として株式譲渡損益を認識する必要があります。
ただし、画像にもあるとおり、完全親法人株式のみを交付する株式交換または株式移転を行った場合には、交付を受けた株主には担税力がないことから、株式譲渡損益を認識しないこととされています(法人税法61条の2、所得税法57条の4関係)。
| 再編類型 | 原則 | 特例 |
|---|---|---|
| 株式交換 | 完全子法人株式を譲渡したものとして譲渡損益を認識 | 完全親法人株式のみ交付なら譲渡損益を認識しない |
| 株式移転 | 完全子法人株式を譲渡したものとして譲渡損益を認識 | 完全親法人株式のみ交付なら譲渡損益を認識しない |
なぜ「完全親法人株式のみ」なら課税しないのか
株主が受け取るのが現金ではなく完全親法人株式のみである場合、投資の対象が完全子法人株式から完全親法人株式へ形を変えただけで、直ちにキャッシュを得ているわけではありません。したがって、担税力がないとして課税を繰り延べる考え方が採られています。
実務コメント
株式交換・株式移転は、会社側の再編税務だけでなく、株主の譲渡益課税の有無を必ず確認する必要があります。とりわけ現金交付型のスキームでは、株主課税が前面に出やすくなります。
現金交付型株式交換などでは注意が必要
画像でも、「現金交付型株式交換のような特殊な事例を除き、株主課税が課されないことが多い」と示唆されています。裏を返せば、株式だけでなく現金等が交付される場合には、株主課税が問題となる可能性があります。
そのため、株式交換・株式移転のスキームを検討する際には、交付対価の内容を慎重に設計する必要があります。
| 対価の内容 | 株主課税の傾向 |
|---|---|
| 完全親法人株式のみ | 原則として課税繰延べ |
| 現金等を含む | 譲渡損益課税が問題となりやすい |
株主間贈与が生じる場合にも注意
画像では、合併・分割型分割の場面でも、株式交換・株式移転の場面でも、株主間贈与が生じる場合に贈与税の問題も生じることがあると注意喚起されています。
これは、たとえば時価と異なる組織再編比率により再編を行う場合、一部の株主に有利・不利な条件で株式や対価が配分されることとなり、経済的利益の移転が生じるためです。
| 論点 | 内容 | 注意場面 |
|---|---|---|
| 株主間贈与 | 時価と乖離した再編比率により一部株主へ利益移転が起こる | 親族間・同族会社再編・非上場株式評価が絡む再編 |
| 贈与税 | 個人株主間で利益移転があれば課税問題が生じうる | オーナー一族内の持株調整 |
実務コメント
非上場会社の再編では、「税制適格かどうか」だけでなく、「再編比率が時価に照らして妥当か」も非常に重要です。比率の合理性を説明できないと、株主課税に加えて贈与税まで論点化する可能性があります。
個人株主と法人株主で見え方が違う点
記事の入口では同じ「株主課税」として整理できますが、実務上は、株主が個人か法人かによって税務の見え方が異なります。
| 株主区分 | みなし配当 | 株式譲渡損益 | 実務上の着眼点 |
|---|---|---|---|
| 個人株主 | 所得税の配当所得として問題になりやすい | 譲渡所得課税が問題 | 納税資金・税率・申告区分に注意 |
| 法人株主 | 受取配当の益金不算入の検討が必要 | 法人税上の譲渡損益計上 | 別表調整や益金不算入割合に注意 |
特に法人株主では、みなし配当が生じても、その後に受取配当等の益金不算入の検討が必要となるため、単純に「課税される・されない」だけでなく、別表調整まで含めて考える必要があります。
実務で確認すべきチェックポイント
組織再編の株主課税は、スキーム検討段階で次の順序で確認すると整理しやすくなります。
| 確認項目 | チェック内容 | 必要資料の例 |
|---|---|---|
| 再編類型 | 合併、分割型分割、株式交換、株式移転のどれか | スキーム図、契約書案 |
| 適格性 | 適格か非適格か | 資本関係図、要件判定メモ |
| 交付対価 | 株式のみか、現金等を含むか | 対価設計資料、契約条項 |
| みなし配当 | 株主側でみなし配当が発生するか | 利益積立金額、資本金等の額資料 |
| 株式譲渡損益 | 譲渡益課税が生じるか | 株主別取得価額資料、株式評価資料 |
| 株主属性 | 個人株主か法人株主か | 株主名簿、グループ関係図 |
| 株主間贈与 | 再編比率が時価と乖離していないか | 株価算定書、第三者評価書 |
| 納税資金 | 課税が出る場合の資金手当てが可能か | 資金計画、配当・借入検討資料 |
初心者の方が誤解しやすいポイント
会社側が適格なら、株主側も常に無税とは限らない
適格再編であっても、対価に現金等が含まれる場合などは、株主側で譲渡損益が問題になることがあります。
非適格合併では会社側課税だけが問題なのではない
実務上は、むしろ株主側のみなし配当が大きな障害になることがあります。
株式交換・株式移転も、常に非課税になるわけではない
完全親法人株式のみ交付なら課税繰延べが基本ですが、現金交付型などでは株主課税が前面化します。
再編比率が不自然だと贈与税まで論点になることがある
特に非上場オーナー企業では、株主間贈与の問題を見落とさないことが重要です。
まとめ
組織再編の株主課税は、会社側の税務とは別に、株主レベルでみなし配当や株式譲渡損益が発生するかどうかを検討する必要がある重要論点です。整理すると、次のようになります。
- 合併や分割型分割では、株主に対して対価が交付されるため株主課税が問題になる
- 非適格合併・非適格分割型分割では、みなし配当が発生しやすい
- 金銭等が交付される場合には、株式譲渡損益もあわせて問題になる
- 適格合併・適格分割型分割では、原則としてみなし配当は発生しない
- 株式のみ交付であれば、株式譲渡損益も発生しない扱いが基本である
- 株式交換・株式移転は、原則として株式譲渡損益が問題となるが、完全親法人株式のみ交付なら課税繰延べとなる
- 時価と異なる再編比率では、株主間贈与や贈与税の問題にも注意が必要である
実務では、会社側の適格性判定だけでなく、株主ごとの取得価額、対価の内容、株主属性、再編比率の合理性まで含めて、総合的に検討することが不可欠です。とりわけオーナー企業の再編では、株主課税の見落としがそのままスキームの破綻につながることもあるため、早い段階から丁寧に整理しておくことが望まれます。
根拠条文・参考資料
- 法人税法24条1項(みなし配当)
- 所得税法25条1項(みなし配当)
- 法人税法61条の2(株式譲渡損益)
- 所得税法57条の4(株式交換・株式移転等に係る譲渡所得等の特例)
- 国税庁「譲渡所得等に係る収入金額とみなす金額等-法人の合併の場合」
- 国税庁タックスアンサー「株式交換により株式を譲渡した場合の譲渡所得等の特例」
- 国税庁質疑応答事例「いわゆる三角合併に係る被合併法人の株主における課税関係」