株式交付とは何か
株式交付とは、株式会社が他の株式会社を子会社にするために、その会社の株式を譲り受け、対価として自社の株式を交付する制度です。会社法では第2条第32号の2で定義されています。
ここでまず大切なのは、株式交付は株式交換とは違い、100%子会社化だけに限定されないという点です。株式交換は完全子会社化のための制度ですが、株式交付は議決権ベースで過半数取得など、子会社化を実現できれば足ります。
そのため、買収の初期段階でいきなり100%取得までは行わず、まずは経営統合や資本業務提携の延長として支配関係を確立したいときに使いやすい制度といえます。
改めて、株式交付制度は、令和元年会社法改正により創設され、その後の令和3年度税制改正によって税務上の手当ても整備されたことで、株式対価M&Aの実務に新たな選択肢をもたらしました。もっとも、制度創設から日が浅いこともあり、株式交換との違いや、課税繰延べの適用関係、令和5年度税制改正後の実務への影響については、なお整理を要する場面が少なくありません。
本稿では、2022年に公表された株式交付の利用事例を素材としながら、2026年3月時点の法令・公表資料に基づき、制度の基本構造と実務上の留意点をあらためて確認します。あわせて、令和5年度税制改正によって実務上どこが変わったのか、特に同族会社に関する取扱いを中心に、税理士・公認会計士の視点から平易に整理いたします。
実務のひとこと
株式交付は「株式交換より軽い制度」と理解するとイメージしやすいです。
ただし、税務は軽くありません。会社法でできても、税務上の繰延べが使えるかは別問題です。
株式交付と株式交換の違い
| 項目 | 株式交付 | 株式交換 |
|---|---|---|
| 制度根拠 | 会社法2条32号の2 | 会社法上の株式交換規定 |
| 対象 | 他の株式会社を子会社化 | 他の株式会社を完全子会社化 |
| 100%取得の要否 | 不要 | 必要 |
| 対価 | 親会社株式+一部金銭等も可能 | 株式等 |
| 税務上の扱い | 組織再編税制そのものではなく、措置法による特例 | 組織再編税制の対象 |
| 活用場面 | 段階取得、提携型M&A、上場会社同士の資本統合 | 完全子会社化、グループ再編 |
この比較で最も重要なのは、株式交付は組織再編税制に直接乗る制度ではないという点です。株式交換は適格・非適格という組織再編税制の枠組みで整理しますが、株式交付は、株主課税の繰延べについて租税特別措置法第37条の13の3(個人)・第66条の2の2(法人)による特例で扱われます。
株式交付の税務の基本
株式交付の税務を理解するうえでは、まず「誰にどの税金が生じるのか」を分けて考える必要があります。
株主側の税務
株式交付では、対象会社の株主は、自分が持っている対象会社株式を譲渡し、その対価として買収会社株式などを受け取ります。形式的には株式譲渡に当たるため、原則として譲渡損益課税が問題になります。
ただし、一定の場合には、この譲渡益課税が繰り延べられます。実務上よく言われるのが、対価のうち株式交付親会社株式の価額が80%以上であること、いわゆる80%要件です。
厳密には、株式交付親会社株式が対価の80%以上である場合に、親会社株式に対応する部分について課税繰延べの対象になります。つまり、「現金が少しでも入ったら全部課税」という理解は正確ではありませんが、実務上は80%要件を満たすかどうかが最初の分岐点になります。
法人側の税務
法人株主についても、基本的な考え方は同じです。措置法66条の2の2および関連通達により、一定の株式交付について譲渡損益の認識が繰り延べられます。国税庁通達でも、株式交付親会社株式の交付割合が8割以上となる場合の取扱いが明確に示されています。
よくある誤解
株式交付については、「株式交換のように無条件で課税されない」と誤解されやすいのですが、実際にはそうではありません。株式交付は、あくまで株式譲渡課税が原則であり、一定の要件を満たしたときにのみ繰延べが認められます。
実務のひとこと
株式交付は「税制優遇つきの制度」ではなく、
「原則課税、例外的に繰延べ」という順番で理解すると整理しやすくなります。
2022年の株式交付活用事例をどう見るか
2022年は、制度導入後の初期活用として、上場会社による株式交付の事例が複数公表された時期でした。資料では、主に次の4類型が整理されています。
- 通常のM&Aとしての活用
- 株式交付のみで100%子会社化
- 資産管理会社への移管
- 株式交付後のスクイーズアウト
ここでは、それぞれの類型について、当時の使われ方と、現在の実務感覚をあわせて解説します。
1. 通常のM&Aとしての活用
もっとも素直な使い方は、買収会社が自社株式を対価として対象会社株主に交付し、対象会社を子会社化する方法です。上場会社同士の資本業務提携や、現金流出を抑えた成長投資型M&Aで相性が良いとされました。
この類型のメリットは、買収会社が手元資金を大きく減らさずにM&Aを進められる点です。また、売主側も買収会社株式を保有し続けることで、統合後の企業価値向上に参加しやすいという特徴があります。
ただし、2023年10月1日以後は、株式交付直後に株式交付親会社が同族会社に該当する場合、原則としてこの繰延べ税制は使えません。そのため、オーナー色の強い上場会社や実質的な同族支配会社では、株式対価M&Aの選択肢としての使いやすさが落ちた面があります。
2. 株式交付のみで100%子会社化した事例
本来、株式交付は100%子会社化に限定されない制度です。しかし、実務上は株式交付だけで結果的に100%取得に至る事例もありました。
トレンダーズの事例では、対価のうち現金部分が大きく、株式部分は相対的に小さい構成でした。このような場合、80%要件を満たさない可能性が高く、株主側に課税繰延べが及ばない、または限定的になるという見方が生じます。
この論点は初心者の方がつまずきやすいところですが、要するに「株式交付という制度を使ったこと」と「株主課税が繰り延べられること」は同じではないということです。
| 見方 | 内容 |
|---|---|
| 会社法上 | 株式交付として実行できるか |
| 税務上 | 80%要件などを満たして課税繰延べが使えるか |
この2つは別々に判断する必要があります。
3. 資産管理会社への移管
2022年当時に注目を集めたのが、オーナー個人が保有する上場会社株式を、株式交付を使って資産管理会社へ移す類型です。株式売却ではなく、株式対価で移管することで、個人側の譲渡課税の繰延べを狙う設計として話題になりました。
もっとも、ここは令和5年度税制改正で大きく風向きが変わりました。現在は、株式交付直後の株式交付親会社が同族会社に該当する場合には、原則として繰延べ特例の対象外です。そのため、典型的な資産管理会社スキームは、現在では以前ほど使いやすくありません。
したがって、2022年の事例をそのまま「今も有効な節税策」と理解するのは危険です。現在の実務では、まず株式交付親会社が同族会社に該当するか、非同族の同族会社に当たるか、そして税務以外の金商法・開示規制・ガバナンス上の問題がないかを総合的に見る必要があります。
4. 株式交付後のスクイーズアウト
株式交付でまず支配権を確立し、その後に株式併合などで少数株主を整理して非公開化へ進む構成も、2022年には注目されました。特に、買収ビークル側の資金負担と対象会社側の資金負担をどう設計するかという論点があり、MBOやオーナー再編との親和性が高いとみられていました。
しかし、この類型も、資産管理会社移管と同様に、令和5年度税制改正後は、株式交付段階の繰延べが当然に使えるわけではありません。特に、実質的にオーナー支配下のビークルを使う場合には、同族会社規制の影響を強く受けます。
令和5年度税制改正で何が変わったのか
ここは本稿の最重要ポイントです。
令和5年度税制改正により、2023年10月1日以後に行われる株式交付については、株式交付の直後に株式交付親会社が同族会社(非同族の同族会社を除く)に該当する場合、株主課税の繰延べ特例は適用されないことになりました。
この改正は、制度創設当初に想定されていた「事業再編・成長投資型M&A」の利用だけでなく、「資産管理会社への株式移管」など私的な再編にも広がっていたことへの対応として理解されています。
改正前後の比較
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 80%要件 | 重要 | 引き続き重要 |
| 同族会社かどうか | 大きな制約ではなかった | 株式交付直後に同族会社なら原則繰延べ不可 |
| 資産管理会社移管 | スキームとして利用余地あり | 大きく制約 |
| MBO・非公開化前提の利用 | 比較的検討しやすい | 同族判定が重要論点 |
実務のひとこと
2022年の事例研究は今でも参考になります。
ただし、「使われた」ことと「今も同じように使える」ことは別です。
現在はまず同族会社判定を確認する必要があります。
それでも株式交付が有効な場面はある
ここまで読むと、「では株式交付はもう使えないのか」と感じるかもしれません。しかし、そうではありません。現在でも、株式交付には実務上の有用性があります。
現在でも有効な典型場面
- 上場会社や分散株主会社による通常の成長投資型M&A
- 対象会社オーナーに買収会社株式を持ってもらい、統合後の企業価値向上に参加してもらいたい場面
- いきなり100%取得ではなく、まず子会社化から始めたい段階取得型M&A
- 産業競争力強化法上の特別事業再編計画など、他制度との組み合わせを検討する場面
特に、経済産業省の資料でも、株式交付を用いた株式対価M&Aの円滑化は政策的に位置づけられています。したがって、同族会社規制の対象外となるケースや、別の制度的支援が受けられるケースでは、依然として検討価値があります。
初心者が押さえるべき実務チェックポイント
株式交付を検討するときは、次の順番で考えると整理しやすくなります。
第1段階:会社法上できるか
- 相手方は株式会社か
- 子会社化になるか
- 株式交付計画や株主総会などの手続は整うか
第2段階:税務上、繰延べが使えるか
- 対価のうち親会社株式の価額が80%以上か
- 株式交付直後に親会社が同族会社に当たらないか
- 法人株主か個人株主かで条文の確認先が異ならないか
第3段階:実務上、本当に使いやすいか
- 既存株主の希薄化は許容できるか
- 上場会社なら開示・金商法対応に無理はないか
- 最終的に100%化や非公開化を見据えるなら次の手当ては何か
まとめ
株式交付は、会社法上は「他の株式会社を子会社化するために、自社株式を対価として相手方株式を取得する制度」です。株式交換と異なり、100%子会社化を前提としないため、柔軟な株式対価M&Aの手段として導入されました。
一方で、税務上は組織再編税制そのものではなく、租税特別措置法による課税繰延べ特例で対応される点が重要です。したがって、80%要件や、令和5年度税制改正後の同族会社規制を踏まえずに制度を評価すると、実務判断を誤るおそれがあります。
2022年に見られた活用事例は、制度の使い道を理解するうえで今でも有益です。ただし、2026年現在では、特に資産管理会社への移管や株式交付後のスクイーズアウトのような場面では、同族会社規制の影響を必ず織り込んで検討しなければなりません。
株式交付は、今もなお有効なM&A手法です。ただし、使えるかどうかは「制度として可能か」ではなく、法務・税務・会計・開示の全体設計に耐えられるかで判断する必要があります。個別案件では、税理士・公認会計士・弁護士が連携して設計することを強くおすすめします。
参考法令・参考資料
- 会社法第2条第32号の2
- 租税特別措置法第37条の13の3
- 租税特別措置法第66条の2の2
- 国税庁 タックスアンサー No.1545「株式等を対価とする株式の譲渡に係る譲渡所得等の課税の特例」
- 国税庁 措置法通達(株式交付親会社株式の交付割合が8割以上となる場合の取扱い)
- 令和5年度税制改正後の国税庁資料(同族会社該当時の取扱い)
- 経済産業省「産業競争力強化法における特別事業再編計画について」