|

債務超過子会社に少数株主がいる場合の合併実務|無対価合併・株式交付型合併・現金交付型合併の比較

被合併法人が債務超過で、かつ少数株主が残っている場合の合併は、通常のグループ内合併よりも検討論点が増えます。特に問題になりやすいのが、株主間贈与のリスクと、適格合併に該当するかどうかです。

実務上は、次の4つの選択肢を比較検討することが多いです。

  • ① 無対価合併
  • ② 少数の株式のみを交付する株式交付型合併
  • ③ 少額の現金のみを交付する現金交付型合併
  • ④ 先に被合併法人株式を取得してから合併する方法

実務コメント
債務超過会社の少数株主処理では、
「対価を出さないほうが安全」とは限りません。
むしろ、無対価にすると税制適格を外すことがあるため、設計を誤ると逆効果です。

1. 無対価合併|少数株主排除のために使うと非適格になりやすい

被合併法人が債務超過であれば、「どうせ株式価値は乏しいのだから、無対価合併にすればよい」と考えがちです。しかし、税務上はそう単純ではありません。

無対価合併が適格合併として認められるためには、通常の税制適格要件だけでなく、対価の交付を省略したことに合理性があると評価される必要があります。法人税法施行令第4条の3では、無対価合併に関する適格判定の枠組みが定められており、少数株主が存在するにもかかわらず、その少数株主を排除する目的で無対価としたような場合には、「対価の交付を省略した」とは認められにくいと考えられます。※1

つまり、もし本来であれば少数株主にも合併対価を交付すべき場面で、あえて無対価として少数株主を切り捨てるような設計をすると、税務上は非適格合併と判定されるリスクがあります。

無対価合併の実務上の注意点

  • 少数株主がいる場合、無対価=自動的に適格ではない
  • 「対価省略」が少数株主排除のためと見られると、適格性を欠くおそれがある
  • 非適格合併になると、被合併法人側で時価評価課税が問題になり得る
  • 繰越欠損金の引継ぎにも悪影響が及ぶ可能性がある

メモ
無対価合併の適格判定は、単に会社法上できるかではなく、
税務上「対価の省略」が許容される関係かまで見る必要があります。

2. 株式交付型合併|少数の合併法人株式のみを交付する方法

次に、少数の合併法人株式のみを交付する方法です。被合併法人が債務超過である場合、被合併法人株主に合併法人株式を交付すると、理論上は株主間贈与の問題が生じ得ます。ただし、交付する株式の時価がごく小さい場合には、その問題が実務上軽微にとどまることもあります。

このため、実務ではごく少数の株式だけを交付して合併を成立させる方法が使われることがあります。1株当たりの時価が高すぎる場合には、合併前に株式分割を行い、交付株式1単位当たりの価額を引き下げる工夫が検討されることもあります。

税務上の位置づけ

合併対価として合併法人株式のみを交付するのであれば、原則として金銭等不交付要件を満たし得ます。そのため、被合併法人と合併法人の間に支配関係があり、さらに従業者従事要件・事業継続要件などの要件を満たす場合には、適格合併に該当し得ます。※2

もっとも、この方法には税務以外の実務上の難点もあります。すなわち、少数株主に合併法人の株主として残ってもらいたくないケースでは、たとえ税制適格を満たせるとしても、株式対価の合併自体を避けたいというニーズが強いからです。

株式交付型合併が向いている場面

  • 少数株主への交付額がごく小さく、株主間贈与の実務リスクが軽微な場合
  • 少数株主を存続会社側に残しても問題が少ない場合
  • 現金対価を出したくない、または出しにくい場合

株式交付型合併の注意点

  • 少数株主が合併法人の株主として残る
  • 債務超過会社の株主への株式交付は、株主間贈与論点を完全には消せない
  • 法務・ガバナンス上、少数株主対応が後に尾を引くことがある

3. 現金交付型合併|少数株主を締め出しつつ適格性を確保しやすい方法

実務上、最も使いやすい場面が多いのが現金交付型合併です。平成29年度税制改正により、一定の場合には、少数株主に対して交付した金銭等が金銭等不交付要件の判定から除外されることになりました。

具体的には、合併法人が被合併法人の発行済株式総数の3分の2以上を直接保有している場合には、少数株主に対して現金を交付しても、直ちに適格性を失うわけではありません。したがって、この要件を満たすなら、現金交付型合併によって少数株主を整理しつつ、適格合併を維持することが可能になります。※3

これは、いわゆるスクイーズアウトを伴う合併実務で非常に重要な改正です。少数株主に合併法人株式を持たせたくない場合でも、現金を交付して退出してもらうことで、グループ再編を進めやすくなりました。

実務コメント
2/3以上を直接保有していれば、
少数株主に現金を渡しても適格性を維持できる余地があります。
少数株主処理の実務では非常に使い勝手のよい改正です。

3分の2未満しか持っていない場合はどうするか

合併前の時点で、合併法人が被合併法人株式を3分の2以上直接保有していない場合でも、事前に資本異動や株式取得を行い、3分の2以上の直接保有関係にしたうえで現金交付型合併を行う設計が考えられます。

このとき気になるのが、支配関係の変化により、繰越欠損金の引継制限・使用制限(法人税法57条3項・4項)や、特定資産譲渡等損失額の損金不算入(法人税法62条の7)の判定で、支配関係発生日が洗い替えになるのではないかという点です。

この点については、平成22年度税制改正後の整理では、同一の者による支配関係から当事者間の支配関係に変わったとしても、原則として支配関係発生日は洗い替えられないとされています。国税庁の質疑応答事例・文書回答事例でも、株式の保有関係が変更した場合の青色欠損金額の引継ぎや支配関係継続要件の判定について、その考え方が示されています。※4

所在不明株主がいる場合の実務

現金交付型合併は、少数株主が所在不明である場合にもよく使われます。所在不明である以上、実際には現金をすぐに渡せないため、支払に備えて管理しつつ、最終的には時効成立により債務免除益が生じることがあります。

もっとも、もともと交付すべき現金額が少額であれば、計上される債務免除益も少額にとどまるため、実務上は大きな障害にならないことが多いです。

4. 適格合併後の帳簿価額引継ぎと資本金等の額の動き

適格合併に該当する場合、合併法人は被合併法人の資産・負債を帳簿価額で引き継ぎます(法人税法62条の2第1項、法人税法施行令123条の3第3項)。これは、単に個々の資産・負債の簿価を引き継ぐだけではありません。

税務上はさらに、被合併法人の資本金等の額および利益積立金額も、一定のルールに従って引き継がれます(法人税法施行令8条1項、9条1項)。

また、合併法人がもともと保有していた被合併法人株式、いわゆる抱き合わせ株式の帳簿価額は、合併法人の資本金等の額から減算されます。さらに、現金交付型合併で少数株主に交付する現金の額も、税務上は資本金等の額の減算要因になります。

数値例

  • 被合併法人の資本金等の額:100百万円
  • 合併法人が保有する被合併法人株式の帳簿価額:10百万円
  • 少数株主に交付する現金:1百万円

この場合、適格合併により合併法人で増加する資本金等の額は、概ね次のイメージになります。

100百万円 − 10百万円 − 1百万円 = 89百万円

イメージ仕訳(簡略化)

区分借方貸方
資産・負債の引継ぎ各資産・負債資本金等の額 99百万円 / 利益積立金額 200百万円 / 現金預金 1百万円 など
抱き合わせ株式の消却資本金等の額 10百万円被合併法人株式 10百万円

※ 実際の会計処理・税務仕訳は個別事案により異なるため、上記は考え方を示す簡略図です。

比較表|どの手法を選ぶべきか

手法適格性の確保しやすさ少数株主の排除主な注意点
無対価合併低いしやすい少数株主排除目的だと非適格リスク
株式交付型合併比較的高いしにくい少数株主が合併法人に残る
現金交付型合併高い(2/3直接保有が前提)しやすい事前の持株比率調整が必要な場合がある
事前取得後の合併高めしやすい取得段階の価格・税務・法務設計が重要

実務上の結論

債務超過子会社に少数株主がいる場合、無対価合併は一見シンプルでも、税務上は非適格になりやすいため注意が必要です。これに対し、少数株主に株式または現金を交付する方法は、一定の条件を満たせば適格性を維持しやすく、特に現金交付型合併は少数株主を整理しやすい点で実務上の使い勝手が高い手法です。

とりわけ、合併法人が被合併法人株式を3分の2以上直接保有しているかどうかは、現金交付型合併の設計で重要な分岐点になります。少数株主対策、適格性、繰越欠損金の引継制限、資本金等の額の処理まで含めて、事前に全体設計を行うことが不可欠です。

参考法令・参考資料

  • 法人税法施行令第4条の3(適格組織再編成における株式の保有関係等)
  • 法人税法第57条第3項・第4項(繰越欠損金の引継制限・使用制限)
  • 法人税法第62条の2第1項(適格合併による資産等の帳簿価額引継ぎ)
  • 法人税法第62条の7(特定資産譲渡等損失額の損金不算入)
  • 法人税法施行令第123条の3第3項
  • 法人税法施行令第8条第1項、同第9条第1項
  • 国税庁「株式の保有関係が変更している場合の青色欠損金額の引継ぎ」
  • 国税庁「株式の保有関係が変更している場合の支配関係の継続要件の判定について」
  • 国税庁「一方の法人による完全支配関係のある法人間で行われる無対価合併の適格判定…」

※1 無対価合併の適格判定については、法人税法施行令4条の3および国税庁の質疑応答事例を参照。
※2 支配関係型の適格合併では、対価要件に加え、従業者従事要件・事業継続要件等の判定が必要。
※3 平成29年度税制改正により、一定の現金交付型合併・株式交換で少数株主に交付する金銭等が対価要件判定から除外。
※4 国税庁の質疑応答事例・文書回答事例では、株式保有関係の変更があっても支配関係発生日が当然に洗い替えられるわけではないことが示されている。

類似投稿

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です