会計事務所を譲渡したあとも税理士として働ける?
― 62歳からの「事務所承継」と「その後の働き方」を実務目線で考える ―
会計事務所を経営している税理士の先生方から、近年とても増えているご相談のひとつに、次のようなものがあります。
「年齢的にはまだ元気だが、万が一のことを考えると、事務所の譲渡をそろそろ考えたい」
「ただし、体力も気力も問題ないので、譲渡後も税理士として働き続けたい」
62歳前後という年齢は、まさにこのような悩みが現実味を帯びてくる時期です。
引退するにはまだ早い。一方で、何の準備もしないまま先延ばしにするのも不安が残る。
その結果、「譲渡」と「その後の働き方」をセットで考え始める先生が増えています。
では、会計事務所を譲渡した後も、税理士として働き続けることは可能なのでしょうか。
結論から申し上げると、
可能です。しかも、実務上はむしろ一般的になりつつあります。
会計事務所の譲渡=即引退、ではない
まず押さえておきたいのは、
会計事務所を譲渡することと、税理士としての引退は別物だという点です。
事務所の譲渡とは、あくまで、
- 顧問契約
- 職員
- 事務所の運営主体
を引き継ぐ取引であり、
売手の先生がその後どう働くかは、契約次第で柔軟に設計できます。
実際の会計事務所M&Aでは、
- 「譲渡後も一定期間、勤務する」
- 「段階的に業務量を減らしていく」
- 「顧問先の引継ぎが終わるまで関与する」
といった形が、非常に多く採用されています。
譲渡後の代表的な働き方パターン
譲渡後の働き方として、実務上よく見られるのは次のようなケースです。
① 譲渡先の社員税理士として勤務するケース
最も一般的なのが、
譲渡先法人の社員税理士として雇用されるパターンです。
この場合、
- 譲渡した事務所拠点にそのまま勤務
- 立場としては「支店長」「所長代理」のような役割
- 現場の統括や顧問先対応を継続
といった形になることが多いです。
特に、
- 地域密着型の事務所
- 売手先生が顧問先から強い信頼を得ている場合
には、譲渡先にとっても非常にメリットの大きい形です。
② 所属税理士として顧問先対応を継続するケース
もう一つ多いのが、
譲渡先の所属税理士として、これまでの顧問先を引き続き担当するケースです。
この場合、
- 組織運営の責任は持たない
- 顧問先対応や申告業務に集中
- 徐々に業務量を減らすことも可能
といった働き方になります。
「マネジメントからは一歩引きたいが、現場仕事は続けたい」
という先生には、非常に相性のよい形です。
継続勤務を希望する場合に必ず意識すべきこと
譲渡後も税理士として働きたい場合、
**最も重要なのは“事前にその意思を明確にしておくこと”**です。
というのも、譲渡先によっては、
- 早期に完全引退してほしい
- 顧問先の引継ぎだけを希望している
といったスタンスの場合もあるからです。
そのため、
- 譲渡を検討し始めた段階
- アドバイザーへ相談する段階
で、
「譲渡後も、一定期間は税理士として働きたい」
という希望を、必ず明確に伝えておく必要があります。
そして、譲渡先との条件交渉においても、
- 勤務形態
- 勤務期間
- 業務内容
を、譲渡条件の一部として整理していきます。
近年は「継続勤務を歓迎」されるケースが多い
実務の感覚としては、
近年は、売手先生の継続勤務を希望する譲渡先が非常に増えています。
背景にあるのは、会計業界全体の人材不足です。
- 経験豊富な税理士が足りない
- 顧問先対応を任せられる人材が少ない
- 若手育成に時間がかかる
こうした状況の中で、
- 実務能力が高い
- 顧問先との関係構築ができている
- 円滑な引継ぎに協力的
な売手先生は、譲渡先にとって非常に心強い存在です。
「譲渡後も一緒に働いてほしい」
と、むしろ強く要望されるケースも珍しくありません。
譲渡後の給与・待遇はどうなるのか
譲渡後は、開業税理士ではなく雇用される立場になります。
そのため、報酬の考え方も変わります。
一般的には、
- 譲渡先法人の給与体系
- 他の社員税理士・ベテラン職員の水準
を参考に決められることが多いです。
「以前より収入が下がるのでは」と心配される先生もいますが、
一方で、
- 経営責任がなくなる
- 固定給で安定する
- 業務量を調整できる
といったメリットもあります。
金額だけでなく、働き方全体でバランスを見ることが重要です。
開業税理士として続けたい場合の注意点
一方で、
「譲渡後も、開業税理士として独立した形で働きたい」
と考える先生もいらっしゃいます。
この場合、必ず注意しなければならないのが競業避止義務です。
会計事務所の譲渡契約では、一般的に、
- 一定期間
- 一定地域において
- 同種業務を行わない
という内容の競業避止義務が盛り込まれます。
これに違反すると、
契約違反としてトラブルになる可能性があります。
譲渡後の働き方として「独立」を希望する場合は、
契約内容を十分に確認し、事前に整理しておくことが不可欠です。
まとめ
会計事務所を譲渡した後も、
税理士として働き続けることは十分に可能です。
むしろ、
- 人材不足の業界環境
- 円滑な顧問先引継ぎの必要性
を背景に、
売手先生の継続勤務は歓迎されるケースが多いのが実情です。
大切なのは、
- どのような働き方を望むのか
- どのくらいの期間、関与したいのか
を、早い段階で言語化し、
譲渡条件の一部としてきちんと整理することです。
事務所譲渡は「引退の準備」ではなく、
これからの働き方を再設計する機会とも言えます。
ご自身の体力・気力・価値観に合った形で、
無理のない次のステージを描いていきましょう。