不動産取得税とは?原則の取扱いと会社分割・合併による非課税要件をわかりやすく解説
不動産を取得したときに課される「不動産取得税」は、不動産売買の場面だけでなく、組織再編成や事業承継の場面でも重要な論点になります。特に、合併や会社分割によって不動産を移転する場合、「グループ内の再編だから税金はかからないのではないか」と考えられがちですが、実際には原則として不動産取得税が課され、一定の要件を満たす場合に限って非課税とされます。
本稿では、不動産取得税の基本的な仕組みを確認したうえで、合併・会社分割による不動産取得税の非課税要件、特に不動産賃貸業における従業者従事要件や事業継続要件の実務上の考え方を、初心者にもわかりやすいように整理してご説明いたします。
この記事のポイント
- 不動産取得税は原則として不動産取得時に課される
- 課税標準は固定資産税評価額、税率は原則4%
- 宅地等には課税標準1/2などの軽減措置がある
- 合併は非課税、会社分割は一定要件を満たす場合のみ非課税
- 不動産賃貸業では、従業者の有無だけでなく事業継続性が重要
事例の前提
ある法人グループにおいて、保有している不動産を再編の一環として別会社へ移転することが検討されています。再編の方法としては、合併や会社分割が候補に挙がっており、対象不動産の中には賃貸用不動産も含まれています。
この場合、不動産の移転に伴って不動産取得税が課されるのか、また、会社分割による不動産の移転について非課税となる余地があるのか、特に従業者が存在しない不動産賃貸業でも非課税要件を満たし得るのかが問題となります。
まず結論
不動産取得税は、原則として、不動産を取得した場合に課されます。したがって、組織再編成によって不動産を取得した場合であっても、まずは課税されるのが原則です。
もっとも、合併により取得した不動産については非課税とされています。また、会社分割により取得した不動産についても、地方税法および地方税法施行令の定める一定の要件をすべて満たす場合には非課税となります。
特に実務で論点となりやすいのは、不動産賃貸業を分割対象とする場合です。不動産賃貸業では従業者が存在しないことも少なくありませんが、この場合でも、直ちに非課税要件を満たさないとは限らず、事業の実態や継続性を踏まえて検討する余地があります。
実務上の要点
組織再編だから自動的に不動産取得税が非課税になるわけではありません。特に会社分割では、分割対価、主要資産負債の承継、事業継続、従業者の承継など、複数の要件を丁寧に確認する必要があります。
論点整理
本件を理解するためには、次の論点に分けて整理するとわかりやすくなります。
| 論点 | 確認事項 | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 不動産取得税はどのような税か | 不動産取得時に都道府県が課す地方税 |
| 2 | 課税標準は何か | 固定資産税評価額が基本 |
| 3 | 税率は何%か | 原則4%、特例により軽減あり |
| 4 | 宅地等の軽減はあるか | 課税標準1/2等の特例あり |
| 5 | 組織再編でも課税されるか | 原則課税 |
| 6 | 合併ではどうか | 非課税 |
| 7 | 会社分割ではどうか | 一定要件を満たす場合のみ非課税 |
| 8 | 不動産賃貸業で従業者がいない場合はどうか | 個別判断だが非課税余地あり |
不動産取得税の原則的な取扱い
不動産取得税とは何か
不動産取得税は、土地や家屋を取得した場合に、その不動産の所在地の都道府県が課する地方税です。売買だけでなく、贈与、交換、新築、増改築、現物出資、一定の組織再編など、法律上「取得」に該当すれば課税の対象となり得ます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 税目 | 不動産取得税 |
| 課税主体 | 都道府県 |
| 対象 | 土地・家屋の取得 |
| 納税者 | 不動産の取得者 |
| 特徴 | 取得時に一度課される流通税的性格の税 |
課税標準は固定資産税評価額が基本
不動産取得税の課税標準は、原則として固定資産税評価額によって計算されます。
画像内でも示されているとおり、地方税法上、不動産取得税の課税標準は固定資産課税台帳に登録された価格を基礎として算定されます。
| 根拠 | 内容 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 地方税法73条の21第1項 | 不動産取得税の課税標準は固定資産税評価額により計算 | 売買代金ではなく評価額が基準になる点に注意 |
初心者向け補足
例えば、1億円で土地を購入したとしても、不動産取得税は必ずしも1億円を基準に計算されるわけではありません。通常は固定資産税評価額を基に計算します。
税率は原則4%、特例で3%となる場合がある
不動産取得税の税率は、原則として4%です。
もっとも、土地および住宅については、一定の特例により税率が軽減される措置が設けられています。画像では「令和6年3月31日までに取得した土地について3%」との記載がありますが、その後、関連する軽減措置は延長が行われており、実務では取得時点の適用期限を必ず確認する必要があります。
| 不動産の種類 | 原則税率 | 特例税率の可能性 |
|---|---|---|
| 土地 | 4% | 一定期間3% |
| 住宅 | 4% | 一定期間3% |
| 住宅以外の家屋 | 4% | 原則4% |
| 根拠 | 内容 |
|---|---|
| 地方税法73条の15 | 不動産取得税の標準税率は100分の4 |
| 地方税法附則11条の2第1項 | 一定の土地・住宅について税率軽減の特例 |
宅地等は課税標準が2分の1に軽減される場合がある
宅地および宅地比準土地については、一定の期間に取得した場合、課税標準が固定資産税評価額の2分の1とされる特例があります。これは土地の流動化や住宅取得負担の軽減を図るための措置です。
| 項目 | 通常 | 特例適用時 |
|---|---|---|
| 宅地等の課税標準 | 固定資産税評価額 | 固定資産税評価額 × 1/2 |
| 根拠 | 内容 |
|---|---|
| 地方税法附則11条の5第1項 | 宅地等の取得について課税標準を2分の1とする特例 |
実務ポイント
軽減措置は恒久措置ではなく、延長立法でつながっているものが多いため、必ず取得日ベースで期限を確認しましょう。画像の資料が古いと、期限だけが更新されていないことがあります。
組織再編成と不動産取得税
組織再編であっても原則は課税
組織再編成による不動産移転であっても、まずは不動産取得税の課税対象となるのが原則です。グループ内移転や経済的実態の継続がある場合でも、当然に非課税になるわけではありません。
| 再編類型 | 原則的な取扱い | 備考 |
|---|---|---|
| 合併 | 非課税 | 法定の非課税規定あり |
| 会社分割 | 原則課税、一定要件で非課税 | 要件確認が必要 |
| 事業譲渡 | 課税 | 通常は非課税規定なし |
| 現物出資 | 課税 | 個別検討 |
合併による取得は非課税
地方税法では、一定の形式的な所有権移転等について不動産取得税を課することができないとされており、その中に合併による不動産取得が含まれています。
| 再編手法 | 不動産取得税 | 根拠 |
|---|---|---|
| 合併 | 非課税 | 地方税法73条の7 |
会社分割による不動産取得の非課税要件
会社分割は「一定要件を満たす場合」に限り非課税
会社分割により不動産を取得した場合は、合併とは異なり、自動的に非課税になるわけではありません。地方税法73条の7の2および地方税法施行令37条の14に定める要件を満たす場合に限り、不動産取得税が非課税とされます。
| 根拠 | 内容 |
|---|---|
| 地方税法73条の7の2 | 一定の会社分割による不動産取得の非課税 |
| 地方税法施行令37条の14 | 非課税となる要件の具体化 |
非課税要件の全体像
画像内にあるとおり、会社分割に係る不動産取得税の非課税要件は、実務上おおむね次の5つで整理されます。
| 要件 | 概要 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| ① 金銭等不交付要件 | 株式以外の資産が交付されないこと | 現金交付などがあると要件を外しやすい |
| ② 主要資産等引継要件 | 主要な資産・負債が承継されること | 不動産だけ抜く形は危険 |
| ③ 従業者従事要件 | 概ね80%以上の従業者が承継会社で従事見込み | 人数把握と資料整備が重要 |
| ④ 事業継続要件 | 承継後も分割事業が継続して営まれる見込み | 単なる資産移転では満たしにくい |
| ⑤ 按分型要件 | 分割型分割の場合の追加要件 | 株式交付割合の確認が必要 |
要件1:金銭等不交付要件
分割対価として、原則として分割承継法人の株式以外の資産が交付されないことが求められます。つまり、現金やその他資産を交付するスキームでは、非課税要件を満たさない可能性があります。
| 分割類型 | 要件 |
|---|---|
| 分割型分割 | 株式以外の資産を交付しないこと+株式が持株割合に応じて交付されること |
| 分社型分割 | 株式以外の資産を交付しないこと |
要件2:主要資産等引継要件
分割事業に係る主要な資産および負債が、分割承継法人に移転していることが必要です。単に不動産だけを承継させ、事業運営に必要な契約や負債等が移転していない場合には、この要件を満たさない可能性があります。
| 確認対象 | 典型例 |
|---|---|
| 主要資産 | 土地、建物、賃貸借契約、敷金、管理契約等 |
| 主要負債 | 借入金、預り敷金、未払費用等 |
実務上の着眼点
不動産だけを切り出すと「事業の移転」ではなく「資産の移転」と見られやすくなります。契約・債務・管理体制まで含めて承継されているかが重要です。
要件3:従業者従事要件
地方税法施行令37条の14では、分割直前の分割事業に係る従業者のうち、総数のおおむね80%以上に相当する数の者が、分割後に分割承継法人に従事することが見込まれていることが求められます。
| 内容 | 基準 |
|---|---|
| 従業者従事要件 | 概ね80%以上 |
東京都主税局や神奈川県の実務資料でも、この要件は重要な非課税判定要件として示されています。
要件4:事業継続要件
分割に係る事業が、承継法人において分割後も引き続き営まれることが見込まれている必要があります。したがって、再編後にすぐ売却予定である、運営実態がない、賃貸活動が継続していない、といった場合は、この要件に抵触する可能性があります。
| 満たしやすい例 | 満たしにくい例 |
|---|---|
| 賃貸借契約を承継し、継続して賃料収入が計上される | 空き不動産だけ移転し、その後利用計画が不明 |
| 管理業務・修繕対応等も承継する | 移転後すぐ第三者へ売却する予定 |
要件5:按分型要件
分割型分割の場合には、交付される株式が分割法人の株主等の有する株式数の割合に応じて交付されることが必要です。これは、経済的持分の継続性を確認するための要件です。
不動産賃貸業で従業者がいない場合の考え方
従業者がいないと、直ちに非課税要件を満たせないのか
不動産賃貸業では、従業者を置かず、役員のみで運営しているケースや、管理会社へ外部委託しているケースも少なくありません。そのため、会社分割の場面で「従業者従事要件を満たせないのではないか」という疑問が生じます。
この点については、画像内でも示されているとおり、従業者従事要件は、従業者が存在する場合に要求される要件であり、従業者が存在しない場合には当然に抵触するわけではないという解釈が実務上一般化してきたと考えられています。
| ケース | 考え方 |
|---|---|
| 従業者が存在する | 概ね80%以上の承継見込みが必要 |
| 従業者が存在しない | 直ちに要件違反とはならない余地がある |
注意点
ここでいう「従業者がいない」は、実態として本当に従業者がいない場合です。単に資料上整理していないだけだと、後で説明がつかなくなることがあります。
それでも事業継続要件は別途必要
もっとも、従業者従事要件について柔軟な考え方が採られるとしても、それだけで非課税となるわけではありません。画像にもあるとおり、事業継続要件を満たさなければ意味がないという点が重要です。
つまり、従業者が存在しない不動産賃貸業であっても、反復継続的に賃貸事業が営まれており、その事業が承継法人において継続することが見込まれていなければ、非課税要件を満たすことは困難です。
| 論点 | 必要性 | 実務上の確認事項 |
|---|---|---|
| 従業者従事要件 | 従業者がいる場合に重要 | 従業者名簿、異動見込み、雇用契約書 |
| 事業継続要件 | 常に重要 | 賃貸借契約、賃料収入、管理契約、事業計画 |
「不動産だけの移転」と「不動産賃貸事業の承継」は違う
実務ではここが非常に重要です。賃貸用不動産を持っているだけでは、必ずしも「分割事業」としての不動産賃貸業を承継したことにはなりません。賃料収入が反復継続して計上され、賃貸借契約や管理体制も含めて承継されて初めて、「事業」の移転と評価しやすくなります。
| 区分 | 非課税要件を満たしやすい | 非課税要件を満たしにくい |
|---|---|---|
| 移転対象 | 賃貸事業一式 | 賃貸不動産のみ |
| 収益状況 | 継続的な賃料収入あり | 売上計上なし |
| 契約承継 | 賃貸借契約・管理契約等も承継 | 契約は移さない |
| 再編後の運営 | 承継会社で継続運営 | すぐ売却・休止予定 |
実務で準備しておきたい資料
会社分割による不動産取得税の非課税を検討する場合、税務上は「要件を満たしているか」を資料で説明できることが極めて重要です。東京都や神奈川県の実務資料でも、提出書類の例が示されています。
| 資料 | 主な用途 | 確認できる要件 |
|---|---|---|
| 分割契約書・分割計画書 | 分割の内容確認 | 分割類型、対価要件、事業承継の範囲 |
| 定款 | 事業目的の確認 | 事業継続要件 |
| 承継権利義務明細表 | 資産・負債の承継状況 | 主要資産等引継要件 |
| 貸借対照表・勘定科目内訳書 | 主要資産・負債の把握 | 主要資産等引継要件 |
| 従業者名簿・雇用契約書 | 従業者の承継確認 | 従業者従事要件 |
| 賃貸借契約書 | 賃貸事業の実在確認 | 事業継続要件 |
| 管理委託契約書 | 運営体制の確認 | 事業継続要件 |
| 株主総会議事録・取締役会議事録 | 再編承認の確認 | 手続的適法性 |
実務アドバイス
不動産取得税の非課税は、申告書だけで完結するというより、再編スキーム全体を説明する資料の束で判断されます。特に不動産賃貸業では、賃貸借契約・収益実績・管理体制を示せるようにしておくと有効です。
初心者の方がつまずきやすいポイント
適格分割なら自動的に不動産取得税も非課税になるのか
いいえ、必ずしもそうではありません。法人税法上の適格分割に該当していても、不動産取得税については地方税法独自の要件を満たす必要があります。東京都主税局の資料でも、適格分割であっても不動産取得税の非課税要件を満たさない場合は非課税にならない旨が示されています。
従業者が1人しかいない場合はどうなるのか
実務資料では、その1人が承継法人へ移れば、従業者従事要件を満たすと整理されています。したがって、人数が少ないこと自体が直ちに不利になるわけではありません。
役員しかいない場合はどう考えるのか
役員も一定の場合には「従業者」として取り扱われる余地があり、東京都主税局のFAQでもそのような考え方が示されています。もっとも、形式だけでなく、実際に分割事業に従事していたかどうかの確認が重要です。
空室の不動産を移すだけでも事業継続といえるのか
慎重な判断が必要です。賃貸事業の実態がなく、反復継続的な売上計上もない場合には、「事業」の承継とは評価されにくくなります。単なる資産移転に見える場合は、非課税適用が難しくなる可能性があります。
実務担当者向けチェックリスト
| チェック項目 | 確認内容 | 確認 |
|---|---|---|
| 再編手法 | 合併か、会社分割か、事業譲渡かを確認したか | □ |
| 対象資産 | 不動産だけでなく事業全体が承継されるか | □ |
| 分割対価 | 株式以外の資産交付がないか | □ |
| 主要資産・負債 | 承継権利義務が十分か | □ |
| 事業継続 | 承継後も同じ事業が継続される見込みか | □ |
| 従業者 | 従業者の有無と承継見込みを確認したか | □ |
| 賃貸事業実態 | 賃料収入や契約関係が継続しているか | □ |
| 証憑整備 | 契約書・定款・議事録・明細表等を準備したか | □ |
まとめ
不動産取得税は、不動産を取得したときに原則として課される税金であり、組織再編成による不動産移転であっても例外ではありません。
もっとも、合併による取得は非課税とされ、会社分割による取得についても、金銭等不交付要件、主要資産等引継要件、従業者従事要件、事業継続要件、按分型要件などを満たす場合には非課税となります。
特に不動産賃貸業を分割対象とする場合には、従業者がいないケースも多く、従業者従事要件だけに目が向きがちです。しかし実務上は、従業者の有無以上に、賃貸事業としての実態があり、その事業が承継法人で継続されるかという点が極めて重要です。
したがって、不動産取得税の非課税適用を検討する際には、不動産だけを移す発想ではなく、事業として何を承継するのかという視点で再編スキームを設計し、必要資料を早い段階から整備しておくことが大切です。
根拠条文・参考資料
- 地方税法73条の15(不動産取得税の税率)
- 地方税法73条の21第1項(課税標準)
- 地方税法73条の7(形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税)
- 地方税法73条の7の2(会社分割に係る非課税)
- 地方税法施行令37条の14(会社分割に係る非課税要件)
- 地方税法附則11条の2第1項(標準税率の特例)
- 地方税法附則11条の5第1項(宅地等の課税標準の特例)
- 東京都主税局「会社分割に係る不動産取得税の非課税措置について」
- 神奈川県「会社分割に係る不動産取得税の非課税措置について」
参考
会社分割に係る不動産取得税の非課税については、地方税法および地方税法施行令に加え、各都道府県税事務所・主税局が公表する実務資料が非常に参考になります。申告・照会対応の実務は自治体ごとに若干異なるため、実際の手続では不動産所在地の都道府県の案内を必ず確認してください。