フリー・キャッシュ・フローの算定に用いる利払前税引前利益(EBIT)には、損益計算書の営業利益をそのまま使えばよいのか?営業外損益・特別損益との関係を実務目線で整理
DCF法でフリー・キャッシュ・フローを算定するとき、出発点として用いられるのがEBITです。EBITは一般に「利払前税引前利益」と訳され、事業活動から生み出される損益を把握するための基本的な利益概念として使われます。
もっとも、実務でしばしば迷いやすいのが、「EBITは損益計算書の営業利益をそのまま使えば足りるのか」「営業外損益や特別損益は無視してよいのか」という点です。結論からいえば、EBITは会計上の営業利益におおむね相当しますが、常に営業利益と完全一致するわけではありません。営業外損益であっても、継続的に発生し、事業に実質的に関連するキャッシュ・フローに影響を与える項目は、原則としてEBITに含める必要があります。他方で、支払利息は負債資本への分配であるためEBITには含めません。また、特別損益は原則としてEBITに含めませんが、非事業資産の処分や将来負担の見積りは、別の形で企業価値評価に反映させることがあります。
以下、初心者の方にも分かりやすいように順に整理します。
【ポイント】 EBITは「営業利益そのもの」ではなく、「事業活動から継続的に生じる損益を把握するための利益概念」です。したがって、表示科目の名前ではなく、実質で判断することが重要です。
■ まず結論
実務上の考え方を先に整理すると、次のとおりです。
| 項目 | EBITに含めるか | 基本的な考え方 |
|---|---|---|
| 営業利益 | 含める | EBITの出発点になる |
| 支払利息 | 含めない | 負債資本への分配であるため |
| 継続的に発生する営業外損益 | 原則含める | 事業に実質的に関連するなら考慮する |
| 一時的・臨時的な特別損益 | 原則含めない | 事業から継続的に生じる損益ではないため |
| 非事業資産の売却損益 | EBITに含めない | 非事業資産価値として別途反映するのが通常 |
| 将来の訴訟損失等 | EBITに含めないのが一般的 | 一定の前提で企業価値から控除することが多い |
つまり、営業利益をそのまま使えばよい場面は多いものの、営業外損益・特別損益を機械的に無視してよいわけではありません。
■ EBITはなぜ営業利益に「おおむね」相当するのか
EBITは事業活動から獲得される損益を把握する概念であり、会計上の営業利益におおむね相当します。これは、通常の事業会社では、営業外損益のうち将来にわたって継続的に発生するものが多くはなく、実質的に重要なのは支払利息程度であることが多いためです。
そのため、一般的な事業会社の評価では、まず営業利益をベースに考え、必要があれば営業外損益の一部を足し引きしてEBITを整えるという流れになります。
【初心者向けの理解】 営業利益は「本業の利益」、EBITは「資金調達の影響を除いた事業の利益」と考えると分かりやすくなります。通常の会社では、この二つがかなり近いことが多い、というイメージです。
■ 支払利息をEBITに含めない理由
DCF法におけるフリー・キャッシュ・フローは、株主と債権者の双方に分配可能なキャッシュ・フローを意味します。つまり、まず企業全体の事業活動から生み出されたキャッシュ・フローを把握し、その後で資本提供者にどのように配分されるかを考える構造です。
このとき支払利息は、すでに債権者に対する分配の一部です。そのため、これをEBITの段階で控除してしまうと、企業全体に帰属する事業成果ではなく、負債資本への分配後の利益を見てしまうことになります。したがって、支払利息はEBITには含めません。
| 項目 | 扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 支払利息 | EBITに含めない | 債権者への分配だから |
| 配当 | EBITに含めない | 株主への分配だから |
| 借入返済 | EBITに含めない | 財務キャッシュ・フローだから |
■ 営業外損益は本当に無視してよいのか
ここが実務上、非常に重要なポイントです。営業外損益という表示区分に入っているからといって、すべて無視してよいわけではありません。支払利息以外の営業外損益であっても、毎期継続的に発生し、実質的に事業活動から生じる損益の一部とみることができる場合には、EBITに含める必要があります。
たとえば、主要な本業ではないものの、不動産賃貸を継続的に行っており、その収支が将来にわたって安定的に見込まれる場合には、その賃貸収入と関連費用はフリー・キャッシュ・フローに影響を与えるものとして考えるのが合理的です。この場合、会計上は営業外収益・営業外費用に表示されていても、実質的には継続的なキャッシュ創出に関係するため、EBITの算定に反映させます。
同様に、運用目的ではない有価証券について毎期安定的に受取利息や配当金が発生する場合も、それを非事業資産として完全に切り離すのではなく、継続的収益として扱うことが検討されます。
| 営業外損益の例 | EBITへの反映 | 考え方 |
|---|---|---|
| 支払利息 | 含めない | 債権者への分配だから |
| 継続的な賃貸収入 | 含めることがある | 実質的に継続的キャッシュ創出に関係するため |
| 非運用目的有価証券の受取利息・配当 | 含めることがある | 事業に付随して継続するなら考慮余地あり |
| 一時的な為替差損益 | 通常は慎重に判断 | 継続性と事業関連性を確認する必要がある |
【実務メモ】 営業外か営業内かという会計表示のラベルで判断するのではなく、「継続的か」「事業に実質的に関係するか」「将来のFCFに反映されるか」で判断するのが実務的です。
■ 特別損益はなぜ原則としてEBITに含めないのか
特別損益は、一般に臨時的・異常な要因や過年度修正などによって発生する損益です。そのため、将来の事業活動から継続的に生じる損益とはいえず、通常の事業計画において毎期織り込む対象にはなりません。
DCF法のEBITは、将来にわたって継続する事業活動からどれだけ損益が生まれるかを測るための概念ですから、原則として特別損益は含めません。
| 項目 | EBITへの反映 | 理由 |
|---|---|---|
| 固定資産売却益 | 原則含めない | 継続的事業損益ではないため |
| 災害損失 | 原則含めない | 臨時・異常な要因だから |
| 過年度修正損益 | 原則含めない | 将来の事業成果を示さないため |
| 訴訟損失 | 原則含めない | 事業計画上の継続収益ではないため |
■ ただし、特別損益を完全に無視してよいわけではない
ここも誤解しやすい点です。特別損益は原則としてEBITには含めませんが、企業価値評価の全体から見て完全に無視してよいとは限りません。
たとえば、遊休不動産の売却を計画している場合、その売却損益は会計上特別損益に計上されることがあります。しかし、このような非事業資産から得られるキャッシュ・フローは、通常のフリー・キャッシュ・フローには含めず、別途「非事業資産の価値」として企業価値に加算するのが一般的です。
また、訴訟等による将来損失が見込まれる場合には、その損失をEBITに含めるよりも、一定の前提条件に立った見積額を企業価値から控除して、株主価値を算定する方法が実務上よく用いられます。
| 特別損益に関係する事象 | 実務上の扱い |
|---|---|
| 遊休不動産の売却 | FCFではなく非事業資産価値として反映することが多い |
| 非事業資産の処分 | 企業価値算定上、別途考慮する |
| 訴訟損失 | 一定の見積額を企業価値から控除することが多い |
| 一過性の異常損失 | 通常はEBITに含めない |
【コメント】 「EBITに入れない」ことと、「企業価値評価で無視する」ことは同じではありません。特別損益に表れている事象の中には、別の形で評価へ反映すべきものがあります。
■ 営業損益に含まれていても調整が必要な場合がある
さらに実務では、営業損益に含まれているから自動的にEBITへ入れてよい、というわけでもありません。たとえば、退職給付を有利子負債に準じて取り扱う場合には、退職給付費用に含まれる利息費用や期待運用収益を調整する必要があります。
これは、退職給付債務を実質的に負債性のある項目としてみる場合、その資金コスト部分まで事業損益として扱うと、財務費用と事業費用が混在してしまうためです。したがって、営業利益に含まれていても、内容次第ではEBIT計算上の組替えが必要になることがあります。
| 営業利益に含まれる項目 | 調整の可能性 | 理由 |
|---|---|---|
| 退職給付費用の利息費用 | 調整することがある | 負債性を考慮するため |
| 期待運用収益 | 調整することがある | 事業損益と区別するため |
| 通常の人件費や販管費 | 原則そのまま含める | 事業活動に直接対応するため |
■ 実務での判断フロー
EBITを算定する際には、次の順で考えると整理しやすくなります。
| 手順 | 確認内容 |
|---|---|
| 1 | 営業利益を出発点にする |
| 2 | 営業外損益のうち、継続的かつ事業関連性のある項目を確認する |
| 3 | 支払利息など財務費用は除外する |
| 4 | 特別損益は原則除外する |
| 5 | ただし、非事業資産処分や将来損失などは別途企業価値へ反映するか確認する |
| 6 | 営業利益に含まれる項目でも、退職給付など性質上の組替えが必要か確認する |
■ まとめ
フリー・キャッシュ・フローの算定に用いるEBITは、会計上の営業利益におおむね相当しますが、損益計算書の営業利益をそのまま機械的に使えば足りるとは限りません。
営業外損益については、支払利息のような財務費用は含めませんが、継続的に発生し、実質的に事業活動に関連する項目は、原則としてEBITに含めて考える必要があります。他方、特別損益は臨時・異常な要因に基づくことが多いため、原則としてEBITには含めません。ただし、非事業資産の処分や将来の訴訟損失などは、別途企業価値又は株主価値の算定上考慮されることがあります。
要点を整理すると、次のとおりです。
・EBITは営業利益におおむね相当するが、完全一致ではない
・支払利息は負債資本への分配であるため、EBITには含めない
・継続的に発生する営業外損益は、実質に応じてEBITへ含める
・特別損益は原則としてEBITに含めない
・ただし、特別損益に表れる事象の中には、別途企業価値へ反映すべきものがある
・営業利益に含まれる項目でも、退職給付などは性質に応じた調整が必要なことがある
DCF法を実務で読むときは、「営業利益を使っているか」だけでなく、「営業外損益や特別損益をどう整理したうえでEBITを作っているか」を確認することが、評価の妥当性を見極める重要な視点になります。