エクイティDCF法と通常のDCF法とは何が異なるのか?初心者向けにわかりやすく解説
DCF法を学んでいると、よく出てくるのが「通常のDCF法」と「エクイティDCF法」という言葉です。どちらも将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて価値を求める方法ですが、実は何のキャッシュ・フローを、どの割引率で割り引くのかが異なります。
結論からいえば、一般的に実務で「通常のDCF法」といわれるのはエンタプライズDCF法であり、これは企業全体に帰属するキャッシュ・フロー(FCFF)を加重平均資本コスト(WACC)で割り引いて企業価値を求める方法です。
これに対してエクイティDCF法は、株主に帰属するキャッシュ・フロー(FCFE)を株主資本コストで割り引いて、株主価値を直接求める方法です。
本記事では、両者の違いを初心者にも分かるように、できるだけかみ砕いて整理します。
1.まず結論:何が一番違うのか
一番大きな違いは、誰に帰属するキャッシュ・フローを評価対象にしているかです。
| 項目 | 通常のDCF法(エンタプライズDCF法) | エクイティDCF法 |
|---|---|---|
| 評価対象 | 企業全体の価値 | 株主価値 |
| 使うキャッシュ・フロー | FCFF(企業全体に帰属) | FCFE(株主に帰属) |
| 割引率 | WACC(加重平均資本コスト) | 株主資本コスト |
| 有利子負債の扱い | 最後に企業価値から控除 | キャッシュ・フローに直接反映 |
つまり、通常のDCF法はまず会社全体の価値を出してから負債を引く方法であり、エクイティDCF法は最初から株主の取り分だけを直接出す方法です。
2.通常のDCF法とは何か
通常のDCF法、つまりエンタプライズDCF法では、まず事業活動から生じるキャッシュ・フロー全体を見ます。これは、株主だけではなく、債権者も含めたすべての資本提供者に帰属するキャッシュ・フローです。
このキャッシュ・フローをFCFF(Free Cash Flow to Firm)といいます。
FCFFのイメージ
FCFFは、ざっくりいえば、
- 事業で稼いだ利益
- 必要な税金を払い
- 設備投資や運転資本の増減を反映した後
- 株主にも債権者にも分配可能なキャッシュ
です。
このFCFFを、企業全体の資本コストであるWACC(Weighted Average Cost of Capital)で割り引いて、事業価値を求めます。
そして最後に、
- 有利子負債
- リース債務
- 非支配株主持分
- 新株予約権など
を控除して、株主価値を求めます。
通常のDCF法の流れ
FCFF → WACCで割引 → 企業価値 → 有利子負債等を控除 → 株主価値
3.エクイティDCF法とは何か
エクイティDCF法は、DCF法の一種ですが、評価の出発点が異なります。
こちらでは、最初から株主に帰属するキャッシュ・フローを求めます。これをFCFE(Free Cash Flow to Equity)といいます。
FCFEのイメージ
FCFEは、株主だけに帰属するキャッシュ・フローです。つまり、事業で稼いだキャッシュから、債権者に帰属する部分を差し引いた後の、最終的に株主に残るキャッシュを意味します。
代表的なイメージ式は次のとおりです。
FCFE = 当期純利益 + 減価償却費 − 資本的支出 ± 運転資本増減 ± 有利子負債の増減
ここで重要なのは、有利子負債の増減がFCFEに直接入ってくる点です。
エクイティDCF法の流れ
FCFE → 株主資本コストで割引 → 株主価値
つまり、通常のDCF法のように最後に負債を引くのではなく、最初から株主の取り分だけを見ているのが特徴です。
4.両者の違いをもっとかみ砕いていうと
両者の違いを、家計にたとえると分かりやすいです。
通常のDCF法
家族全体の収入をまず把握して、そこから住宅ローンなどの借入を差し引いて、最終的な家族の純資産を出すイメージです。
エクイティDCF法
最初から「住宅ローン返済後に家計に残る金額」だけを追いかけて、その現在価値を求めるイメージです。
つまり、通常のDCF法は全体から入る方法で、エクイティDCF法は株主の持分から直接入る方法です。
5.有利子負債の扱いが最も大きな違い
本質的な違いは、有利子負債をどこで反映するかにあります。
通常のDCF法(エンタプライズDCF法)
- 現在の有利子負債:最後に企業価値から控除する
- 将来の支払利息:WACCの中で税効果を通じて織り込む
- 将来の借入・返済:FCFFには直接入れない
エクイティDCF法
- 現在の有利子負債:最後に別途控除しない
- 将来の支払利息:FCFEの中に反映される
- 将来の借入・返済:FCFEの中に直接入る
つまり、通常のDCF法では負債の影響を評価の外側で整理するのに対し、エクイティDCF法では評価の中に直接入れるわけです。
6.なぜ通常のDCF法の方が一般的なのか
実務で事業会社の価値評価をするとき、一般に使われるのはエンタプライズDCF法です。その理由は、エクイティDCF法には実務上の難しさがあるからです。
理由1:キャッシュ・フローと割引率の整合性を保ちにくい
エクイティDCF法では、FCFEに将来の借入・返済や利払いを入れるため、将来の資本構成の変化がキャッシュ・フローに大きく影響します。
さらに、割引率である株主資本コストも、負債比率によって変わります。つまり、
- キャッシュ・フローも負債比率に影響される
- 割引率も負債比率に影響される
ため、両者を常に整合させるのが難しいのです。
一方、通常のDCF法で使うWACCは、負債比率が変わっても大きくはぶれにくいため、実務上の安定性があります。
理由2:将来の借入・返済計画を細かく予測する必要がある
FCFEを正確に求めるには、損益計算書だけでなく、貸借対照表や資金調達・返済計画まで詳細に予測する必要があります。
つまり、
- どの時点で借りるか
- どの時点で返すか
- 利息はどうなるか
を明示的に織り込まなければなりません。
事業会社の評価では、ここまで精緻に将来の財務政策を固定的に予測することは簡単ではありません。
理由3:事業別の分析に向きにくい
通常のDCF法では、事業ごとにFCFFを見て、事業価値を積み上げることが比較的しやすいです。
一方、エクイティDCF法では、すでに株主に帰属するキャッシュ・フローに変換された後なので、どの事業がどれだけ価値を生んでいるかを分析しにくくなります。
7.では、エクイティDCF法はいつ使うのか
エクイティDCF法が特に適しているのは、金融機関の価値評価です。
なぜ金融機関に向いているのか
銀行などの金融機関では、借入や預金、資金調達そのものが事業活動の中核にあります。つまり、通常の事業会社のように、
- 事業活動
- 財務活動
をきれいに分けて考えることが難しいのです。
たとえば銀行では、預金を集めて貸出を行うこと自体が本業です。したがって、資金調達と事業運営が一体です。
このような場合、通常のDCF法のように「財務活動はFCFの外に置く」という整理がしにくいため、株主に帰属するキャッシュ・フローを直接見るエクイティDCF法が適合しやすくなります。
8.通常のDCF法とエクイティDCF法の比較表
| 比較項目 | エンタプライズDCF法 | エクイティDCF法 |
|---|---|---|
| 評価対象 | 企業全体の価値 | 株主価値 |
| キャッシュ・フロー | FCFF | FCFE |
| 割引率 | WACC | 株主資本コスト |
| 現在の有利子負債 | 最後に控除 | 原則として別途控除しない |
| 将来の借入・返済 | FCFに直接入れない | FCFEに直接反映 |
| 支払利息 | WACCの税効果に反映 | FCFEに反映 |
| 主な適用先 | 一般の事業会社 | 金融機関など |
9.初心者向けの要点整理
- 通常のDCF法は、まず会社全体の価値を出してから負債を引く方法
- エクイティDCF法は、最初から株主の取り分だけを見る方法
- 通常のDCF法ではFCFFとWACCを使う
- エクイティDCF法ではFCFEと株主資本コストを使う
- 一般の事業会社では通常、エンタプライズDCF法が使われる
- 金融機関では、事業と財務が一体なのでエクイティDCF法が適しやすい
10.まとめ
エクイティDCF法と通常のDCF法の違いは、どのキャッシュ・フローを、どの割引率で割り引くかにあります。
通常のDCF法、つまりエンタプライズDCF法では、企業全体に帰属するFCFFをWACCで割り引いて企業価値を求め、そこから有利子負債等を控除して株主価値を求めます。
一方、エクイティDCF法では、株主に帰属するFCFEを株主資本コストで割り引いて、株主価値を直接求めます。
理論的にはどちらも成り立つ方法ですが、実務上は、キャッシュ・フローと割引率の整合性を保ちやすく、事業分析もしやすいエンタプライズDCF法が一般の事業会社では主流です。
これに対し、金融機関のように資金調達そのものが事業の一部であり、事業と財務を切り分けにくい業種では、エクイティDCF法が適しているといえます。