【役員退職金の税務】役員の職務変更に伴い支給する退職金の取扱い
― 分掌変更時の退職金の実務判断を公認会計士が解説 ―
■ 事例
当社の創業者である代表取締役Aは高齢となったため、
この度、代表取締役を退任し、長男Bを代表取締役に就任させる予定です。
Aは今後、会長として代表権のない非常勤取締役となり、
役員報酬も月額150万円から75万円へ減額する予定です。
このように
- 職務内容が大きく変わる
- 報酬が半分になる
ため、退職金の支給を検討しています。
この退職金は税務上損金算入できるのでしょうか。
■ 結論(重要ポイント)
代表取締役から非常勤取締役となった役員に支給する退職金は、
次の要件を満たせば
👉 退職給与として損金算入可能です。
要件
- 分掌変更により「実質的に退職した状態」と認められること
- 分掌変更後に経営上の主要地位を占めていないこと
- 退職金が不相当に高額でないこと
(根拠:法人税法34条2項、法人税法施行令70条2号、法基通9-2-32)
■ 役員退職給与とは何か(基礎整理)
役員退職給与とは
👉 任期満了・辞任・退任など「退職の事実」により支給される給与
をいいます。
(根拠:法基通9-2-32)
ただし実務では
- 在職したまま
- 役割のみ変更
というケースも多く存在します。
この場合でも
👉 退職に準ずる事実があれば退職給与として扱える
とされています。
■ 分掌変更による退職給与が認められる典型例
税務上「退職と同様の事情」と認められる代表例は次の通りです。
① 常勤役員 → 非常勤役員
ただし
👉 代表権が残る場合は原則NG
(根拠:法基通9-2-32)
② 報酬が大幅減額
実務目安
👉 おおむね50%以上減額
③ 経営関与が実質的に低下
例えば
- 日常業務に関与しない
- 決裁権がない
- 取引先対応をしない
- 銀行交渉をしない
など
■ 最重要論点
「経営上主要な地位を占めているか」
ここが税務調査で最も争われます。
分掌変更後も
- 実質的な最高意思決定者
- 会長だが全案件を決裁
- 銀行が創業者を実質トップと認識
- 大口取引の最終判断者
このような場合
👉 退職とは認められません。
結果
→ 退職金ではなく
👉 役員賞与扱い(損金不算入)
となります。
(根拠:法人税法34条)
■ 退職金が過大かどうかの判断基準
税務上は
次の観点で判断されます。
(根拠:法人税法34条2項、施行令70条2号)
| 判断要素 | 内容 |
|---|---|
| 勤続年数 | 長いほど高額容認 |
| 功績 | 創業者などは高評価 |
| 同業比較 | 同規模会社との比較 |
| 退任事情 | 事業承継などは合理性高い |
■ 貴社ケースの実務判断
今回のケースは
- 代表権なし
- 非常勤化
- 報酬1/2
- 事業承継目的
であるため
👉 原則として
退職給与として損金算入可能と考えられます。
ただし
次の行動は非常に危険です
- 会長が銀行折衝を継続
- 社内で実質トップ扱い
- 株主総会で創業者が最終決定
- 社員が指示を受ける
この場合
👉 税務署は
「形式的分掌変更」と判断します。
■ 税務調査対応のための実務対策
プロ実務では必ず行います。
✔ 職務権限規程の変更
✔ 稟議決裁権の移管
✔ 代表印管理の変更
✔ 銀行届出の変更
✔ 取引先への代表交代通知
✔ 株主総会議事録の整備
👉 形式だけでなく実態を変えることが重要
■ まとめ
- 分掌変更でも退職金は損金算入可能
- ただし実質退職が絶対条件
- 経営関与が残ると賞与扱い
- 過大退職金は損金不算入
- 税務調査では「実態」が最重要